「逃亡のフォルト④」

「何か、聞きたいこととかあるかな?」

 仮面の人の言葉に、私は軽く頷き、聞きたいことを軽く整理した後、改めて、仮面の人の方を向く。

「いくつか聞きたいことがあります。少々長くなるかもしれませんが、良いでしょうか?」

「……うん。もちろん。始めっからそのつもりだったしね」

「…ありがとうございます。じゃあまず……さっき行ったカフェに居た人の様子が変だったですけど、何か知っていますか?」

「あぁ、あれね。あれは仕事を探しているんだよ」

「仕事?」

「うん。仕事。皆仕事について書かれた本を読んでるんだよ。この辺の求人…仕事の種類は、荷物を配達するのと、接客業が多いかな。時々、パソコンみたいな電子機器を使う、少し難しい仕事もあるけど、大体身体を動かす仕事について多く書かれてるよ」

「……?なんでわざわざカフェで仕事を探すんですか?」

「う〜ん…生きていくにはお金が必要だよね?」

「はい。そうですけど…」

「でも、仕事をしてないと金は手に入らないし、住む場所だってままならないよね。宿屋とかに居れるのはせいぜい一晩だけだろうし。要するに、居場所が無いから仕方無くってヤツだよ」

「……家とかないんですか?そういう人達は…」

「少なくともこの辺には無いんだろうね。出稼ぎってヤツだよ。高いお金を求めて、違う地区とか国に行くアレ」

「…そんなにここの賃金は高いんですか…?」

「うん。例えば、君の居たセイキロス区だと、一時間働いて大体千ゴールド。この地区だと、大体三千ゴールド。だから少なくとも他の地区の三倍はあるね。

「……!?…何でそんな高いんですか…」

「えっと…まず、あの看板見える?」」

 私の言葉に、仮面の人はそう言って遠くの方を指した。指された先には、見たことのある看板が建物に貼り付けられていた。

「…ウラッド…コーポレーション…?のやつですか?」

「うん。君も一度くらいは聞いたことのあるでしょ?」

「はい…テレビで何回かは……でも、詳しい事はちょっとわからないです…」

「そっか。じゃあ最低限説明するね。ウラッドコーポレーションは、簡単に言えば、沢山の子会社を抱える大企業。そのうえ、建築、食品、運搬、飲食店などなど、衣食住をなんとか出来るくらいには何でも出来る会社だよ」

「なるほど……それで、その会社について説明したのはなんでですか?」

「単純な理由だよ。この自治区を支配してるのが、話してる会社の会長だから。それだけだよ」

 それを聞いて私は一瞬思考が止まったのを感じた。そりゃそうだ。だって、あまりにも学校で習ったことと違うのだから…

「…え!?それって、おかしくないですか…!?」

「うん。他に前例が無いくらいにはおかしいよ。普通は、四年おきで選挙でその区を仕切る知事を決める、もしくはその自治区を長年支配してる貴族だったりが支配するものだからね。多分君も学校ではそう習ったでしょ?」

「は、はい」

「でも、実際此処では大企業とはいえ、たかだか企業の会長がこの自治区の支配者として君臨している…さて、なんでだと思う?」

「えっと……単純にその会長とやらが貴族なんじゃないですか…?一つの企業の会長が議員をやるのは、市民の不審感とか汚職とか、色々問題がある気がしますし……」

「考えてることはごもっともだよ。でも、見落としていることがあるよ」

「見落とし…?」

「そう、見落とし。どうして一企業がこの自治区を支配できたのか。その見落としさえ分かれば、この自治区の気持ち悪さも分かると思うよ」

「う〜ん……」

「一応ヒントをあげよう。ヒントは政治家と昔の歴史。わかったら教えてね」

 そう言われ、私はもう一度この自治区で経験したことを整理し始めた。考え進めるうちに、ある一つの考えが浮かんできた……けど、それはあまりにも結果ありきの考えでしかない……でも……

 私は意を決して、仮面の人に話しかけた……

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