変化

「嘘だろ? なんでこんなにカワイイんだ! 無修正なのか?」

「修正って……失礼なやつだな」

「いや、もう、これは……うん。瀬名川の気持ちもよくわかる。こんな妹がいたら、オレだって独占したいわ」

「隠したくもなるよな。わかるぞ、わかるぞ。おにーちゃんなら、可愛い妹に変な虫がついたら困るもんな」

「オレ、マオちゃんのファン一号になる!」

「ずるいぞ! 抜け駆けはなしだ!」


 急に騒ぎだした一団に、クラスのメンバーの怪訝な視線が集まる。

 それに気づいた慎也の顔が不機嫌に歪み、三人に「静かにしろ」と鋭い声で注意する。


「こうなったら、マオちゃんにはなんとしても、合格してもらわないと!」

「瀬名川も頑張れ! マオちゃんをうちの高校に呼び込め」

「いや、ちょっと、それはあまりにも難しいんじゃないかな」

「受験するんだろ?」

「まあ、一応な。でも、ウチの高校の勉強は今までしてなかったから厳しいだろ」

「あきらめるのはまだ早い。オレたちも過去問から傾向と対策を考えてやる」

「オレもやってやる! オレたちのマオちゃんなら楽勝だ」

「なんなら勉強会を開こうじゃないか!」

「おい、こら、勝手なことを言うなよ」


 三人に詰め寄られて、慎也は困ったように視線をさまよわせる。

 いくつか気になる発言はあったが、三人に悪意はない。それがわかっているだけに、慎也は対応に戸惑いをみせる。

 積極的に友人を作らなかった慎也には、この距離間が苦手なようだった。


「遠慮するな。ガンガン協力するぞ」

「大船に乗ったつもりでいてくれ。分析は得意だ」

「いや、あ、まあ、ありがとう?」

「だから、マオちゃんのその写真! オレにくれ!」

「オレにも」

「欲しい!」

「嫌だ!」


 とか言いながら、最終的に慎也は三人に妹の写真を共有することになってしまう。

 しかも、その一枚ではなく、複数枚の写真を渡してしまったようである。

 トリオはごきげんだ。


 今までの慎也ではありえない展開に、桃乃は驚きを隠すことができなかった。


 慎也は変わった。

 変わりつつある。

 彼を変えたのは、誰だろうか。


 目の前の騒がしくておせっかいなトリオか、新しい母親か。それとも再婚を決意した父親か。


 マオちゃんと呼ばれている妹なのか……。


 慎也に嫌われたくない桃乃は、この会話に加わることはしない。

 じっと耳をすまして、彼らの会話を聞くことしかできない。

 焦りだけが心の奥底に積もっていく。


「なあ、マオちゃんの受験が終わったら、みんなで、妹たちも誘って一緒に遊びに行かないか?」

「え? オマエのところって、妹とそんなに仲がよかったのか? よく喧嘩するんだろ? ジャマとか、ウザイとか言われているって」

「大丈夫だ。瀬名川慎也の名前をだしたら、絶対に釣れる! 二百パー間違いなしだ!」

「あ、そうだな。その手があったか!」

「そうだな。それがいい! 遊ぶべきだ! ナママオちゃんに会いたい」

「断る!」


 断る、と言いながらも、慎也の顔は笑っていた。

 新しい家族との関係はうまくいっているのだろう。


 今まで見たこともない優しい笑顔に、桃乃の心は激しく揺れる。


 自分に向けられた笑顔ではないのに、鼓動がどうしようもなく高鳴った。

 組んでいた手をぎゅっと握りしめる。

 いつかその笑顔を自分にも向けてくれる日が来るのだろうか。


 心の中がざわざわとして落ち着かない。

 慎也とは同じ教室の中にいるのに、とても遠い場所にいるように感じる。

 焦燥感にかられながら、桃乃はそんなことをぼんやりと考えていた。

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