次なる遭遇
前を歩いていた三つ子たちの歩みが不意に止まった。
ワタシとフレドリックくんの足も止まる。
「まあっ! 王太子殿下の護衛騎士の方々、このような場所でどうなされたのですか?」
軽やかな若い女性の声。
ワタシたちの目の前には、華やかなドレスをまとい、綺麗に化粧をし、髪を豪華に結い上げた美しい令嬢が三人。
行く手を阻むバリケードのように、立ちはだかっていた。
彼女たちの後ろには数名のメイドが茶器やら、菓子の乗った皿を載せたトレイを持って続いていた。
メイドたちがこちらに向かって頭を下げる。
三つ子とフレドリックくんがその場で優雅に腰を折った。
王城見学で色々な人とすれ違ったけど、彼らがお辞儀をしたのは彼女たちが初めてだ。
ということは、身分が高いヒト登場!
たしかに、このご令嬢たちからは、すごく偉そうで傲慢な気配が漂っている。
ワタシも護衛騎士たちを見習って、カーテシーとかやった方がよいのだろうか?
今までずっとされる側だったので、やってみるのもよい経験だろう。ぶっつけ本番だが、できそうな気がした。
「我が国の賓客である勇者様は、そのままでかまいません」
そのとき、フレドリックくんの囁くような声がワタシの耳に届く。
そうなの?
そのままでよいというのならそうするけど。だとすると、ワタシは三人のご令嬢と真正面で睨み合うことになるのですが?
大丈夫ですか?
ワタシが立ったまま動かないものだから、ご令嬢たちの表情が引きつりはじめる。
本当にこのままでいいのだろうか。
できれば、無用なトラブルは避けたいのだが。
ワタシは手違いでこちらの世界に召喚されたのであって、こちらの世界に喧嘩を売るために攻め込んできたんじゃない。
どこからどうみても、今のワタシの状態は、年頃の令嬢たちを挑発しているようにしか見えない。
自分たちの表情の変化を自覚していたのか、令嬢たちは背筋をそらすと、手にしていた扇をバサリと広げる。
フワフワとした羽根扇をパタパタさせながら、優雅な仕草で口元を隠す。
三人が一斉に扇を広げる様は、なにかの大道芸のようで面白かった。
みな羽根扇をせわしなく揺らしながら、私の方をすごい目で睨んでくる。
「こちらの方は、王太子殿下のお客人かしら?」
緑の髪、茶色の瞳のご令嬢が言葉を発する。
彼女の言葉を合図に、護衛騎士たちはお辞儀を終了する。
「はい。昨日、異世界より参られました勇者様でございます」
淡々とした口調で答えるフレドリックくん。
肉食花を相手にしたときよりも、場が緊迫しているのは……ワタシの勘違いだろうか?
「まあ! 異世界からお招きした勇者様って、女性の方でしたのね? 驚きましたわ。見た目はともかく、勇ましい方なのですのね。きっと、泥や血にまみれても、眉ひとつ動かさない強靭な方なのですね」
「そうです。そうです。食事を完食される猛者だとか」
「王家ご自慢の肉食花を、眉一つ動かさずに、片手のひと振りで切り落としたのですよね? 庭師でも切り落とすのに難儀するものを、ためらうことなく一瞬で。異世界の女性は、わたくちたちと違って猛々しいのですね」
「まあ、怖いことをなさるのね」
「王家が大事にしている肉食花を……。なんて、恐れ多いことなのかしら」
「その黒い、メイドよりも控えめな衣装は、これからの戦いにそなえてなのかしら。控え目な黒い髪によくお似合いですわね」
「勇者様というから、王太子殿下のようにきらびやかな方かと思ったのですけど」
ホホホと笑いをはさみながら、ご令嬢たちが一斉にしゃべりだした。
鈴を転がしたような美しい声なのだが、言葉の端々に毒が潜んでいる。
そして、びっくりするくらいにうるさい。
「フレドリックくん、こちらの物怖じなさらない残念なご令嬢たちは?」
ワタシの質問に、フレドリック本人よりも令嬢たちのほうが騒ぎ始める。
「まあ、なんて、馴れ馴れしい!」
「護衛騎士の方のお名前を呼ぶなんて、図々しい方ですのね」
「何様のおつもりなのかしら?」
「…………」
いや、そりゃ、フレドリックくん御本人が、自分のことをフレドリックと呼んでくれ、と言ったからワタシはそう呼んでいるんだけど? なにか問題があるのかな?
ちなみに、ワタシは魔王様だぞ。
ここの世界のヒトたちはワタシを勇者様って言ってるけど?
「勇者様、こちらのご令嬢は……」
「まあ、皆さんごきげんよう。庭がとても賑やかですが、なにかありましたか?」
凛としたよく通る女性の声が、フレドリックくんの言葉を遮った。
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