肉食花

「あ、あそこに巡回中の肉食花が見えましたね」


 フレドリックくんが指さした先には、元気にうごめく巨大花がいた!

 しかも、こちらの方に近づいているような気がする。

 いや、気のせいじゃない!


「フレドリック様、またコースから外れているようですよ。困りましたねぇ」

「また巡回コースから外れてしまったか」


(えっ! 今の空耳じゃないよね? また? 今「また」って、言ったよね?)


「フレドリックくん、こ、こういうことって、頻繁に発生するのか?」

「そうですね。なにしろ、肉食花は自由奔放な生き物ですから」


(ちょっと待ってよ! 絶対に肉食花の使い方を間違っているよ! セキュリティが自由奔放でどうするつもりぃっ! ちゃんと管理して制御してよ!)


「勇者様、あれはデイビスですね。気難しくて内向的な子なのですが、今日はとてもごきげんなようです」


(フレドリックくん! ワタシはそんな情報は求めてないから!)


 昨日、ワタシが遭遇した肉食花とどこが違うというのだろうか。

 三つ子と同じで、全く同じにしか見えない。


(どうしてこの距離から個体名称がわかるのよっ! っていうか、あれのどのあたりがごきげんなのかな!)


 侍従っぽいひとたちが悲鳴をあげながら、花畑の中を逃げまくっている。

 あの様子は、お花と戯れているのではなく、ガチで逃げているっぽいんですけど?


「……大丈夫なのか?」

「勇者様、ご安心ください。庭師たちがすぐに取り押さえますから」


 フレドリックくんの言う通り、縄を持ったツナギ服の男たちがどこからともなく現れ、肉食花を取り囲む。


 縄が一斉に放たれデイビスくんをからめとるが……デイビスくんは身体を思いっきり揺らすと、庭師たちはひとり残らず空中に投げ飛ばされていた。

 驚きの飛距離だ。


 庭師が弱いのか、肉食花が強すぎるのか。

 デイビスくんがどういう気持ちなのか全くわからない。

 だが、デイビスくんは、脇目も振らずに一直線でワタシたちがいる方向に向かっている。


 いや、城内へ逃げ込もうとしている侍従を追っているのだ。


「助けてくれ――!」

「こ、殺されるぅ!」

「食われ――る!」


 懸命に逃げる侍従たちを追いかける肉食花。


「…………」

「……ホントウに大丈夫なのか?」

「大丈夫です」


 ってフレドリックくんは宣言したけど、三つ子たちはワタシを護るような配置になって、腰の剣を抜いてるよ?


「ぎゃるるるぅぅぅ!」


 花が叫んだ!

 巨大な口がぱっくり開く。

 魔王も驚く大迫力だ。


 侍従のひとりが食べられてしまいそうだ。


(頭からボリボリぃっ!)


 頭を切り落とすのがダメなら、焼き払うか、いや、氷漬けなら問題ないだろう。


「勇者様、しばしの間ですが、お側を離れることをお許しください。お願いですから、魔法はくれぐれもお控えくださいね。切るのも焼くのも凍らせるのもダメですからね」

「え…………?」


 ワタシの返事を聞かずに、隣にいたフレドリックくんがいきなり動きだす。


 爽やかな風が吹き抜けた。と思った次の瞬間には、三つ子たちの前に躍りでて、再びダッシュ。

 かなり高位の身体強化魔法を使っているのか、動きがめちゃくちゃ速い!


 その勢いを保った状態で、フレドリックくんは宙でくるりと回転しながら、右足を高く跳ね上げる。

 そして……。


「ぐふぅっ!」

「ぐはあっ!」

「げほっ!」


 逃げていた侍従たちの腹、頬、頭頂部に、フレドリックくんの長い足がめりこんでいく。


 蝶のように舞い、蜂のように刺す攻撃だ。


 うめき声と一緒に、ゴリッとかボキィとかいう生々しい音がしたが……。

 侍従たちがフレドリックくんの一蹴りでバタバタと地面に倒れていく。


「ちょ、ちょっと! どういうことぉ――っ!」


 フレドリックくん! 肉食花から必死に逃げている人を助けるどころか、地面に転がしてどうするつもり!


(ひえっ! 生きてるの? 死んじゃったんじゃないの? すごい音がしたよ? ピクリともしないし、うめき声もしない!)


「確保っ!」


 フレドリックくんの命令に三つ子たちは、一斉に地面で伸びている侍従たちを取り押さえる。

 侍従たちは気を失ったままだ。

 三つ子は懐から取り出した魔力のこもった縄を使い、意識のない従者たちを後ろ手に縛り上げる。


 見事な連係プレーと早業だ。しかも、手加減は全くしていない。


 三つ子たちの行動はまだまだ続く。

 口には猿ぐつわをかませ、服の中を改め始める。すると、短剣やら小瓶やら、さらには見慣れぬ小道具などが、次から次へとでてくる。ほとんどが武器みたいだ。


 すごい。

 異世界の侍従は、奇妙なものを持ち歩いているようだね。

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