勇者様の王城見学
黒のシンプルなドレスに着替えたワタシは、絢爛豪華な朝食を食べた。
食事をするつもりはなかったのだが、すでに用意されていたので、食べないとまた誰かが処分されても困る。
贅沢な朝食をひとりで頂いたあとは、護衛騎士たちに城内をひととおり案内してもらうことになった。
王太子殿下がいうとおり、室内監禁ではないようだった。
三つ子の(おそらく)長男デュースくんと(たぶん)三男リィクルくんが先頭。
ワタシとその隣に専属護衛のフレドリックくん。
後ろは次男(であろう)ユーリスくんとリニー少年。
なぜかリニー少年もワタシの王城見学にひょこひょことついてきたのだ。
なんだか監視されているようで、ちょっぴり緊張する。
ワタシの隣を歩く燃えるような赤髪のフレドリックくんは、騎士になるために産まれてきたような、鍛え抜かれた立派な体躯の青年だった。
この集団の中では一番背が高い。
王太子殿下よりも高かった。
姿勢も良いので、実際の身長よりもさらに高く見えるのだが、フレドリックくんは、少しばかり地味な感じがする。
まあ、エルドリア王太子殿下と比べてしまうから、地味に見えるだけで、本当に地味な男ではない。
いや、あのキラキラ眩しい王太子の後ろに控えるのなら、これくらい地味……落ち着いている方がちょうどいいくらいかもしれない。
フレドリックくんまでキラキラしてたら、目のやり場に困るだろう。それこそ、眩しすぎて目が潰れてしまう。
リニー少年が朝の支度時間に説明してくれた情報が正しければ、フレドリックくんは将来が約束された超がつくエリートだ。
なにしろ騎士団長の息子だからね。
たぶん、リニー少年も超がつくエリート候補なんだろう。
超エリートな小悪魔天使の説明によると、フレドリックくんは、エルドリア王太子の覚えもめでたく、王太子の一番近くにまで近づくことができる、側近的な存在であるらしい。
近衛騎士の条件には、武勇だけではなく、見目麗しく、品行方正で知性ある言動も求められている。国によっては、家柄も条件に加わる場合もあるのだ。
世界が異なっても、そういう部分は同じなようだ。
一応、ワタシの近衛騎士も、そういう条件にかなうものを選んでいる。
なにしろ、近衛騎士はワタシとセットで行動する。イメージダウンになりかねないような問題児を、ぞろぞろと連れ歩くわけにはいかない。
粗野で乱暴でバカなヤツを連れ歩くと、ワタシの品位まで疑われるからな。
採用基準は厳しくしないと、自分自身に跳ね返ってくるんだ。
そして、オマケのような、三人ワンセットで扱われそうな三つ子たち。
くやしいけど、三つ子の見分け方がワタシには全くわからない。
アホ毛の数とか向きが違ったらいいのだが、なにもかもが寸分の狂いもなくピタリと一緒だ。
護衛騎士たちの会話は最小限だし、四人は仲良しさんなのか、目と目で会話して頷きあっている。
会ってまだ数時間では、見分けるヒントのかけらも見つけることができないでいた。
勝手に相手のステータスを覗き見るのはマナー違反だ。そもそも彼らの騎士の制服には強力な魔法防御などが施されているので、それを上回る魔法となると、相手に魔法発動がバレてしまうだろう。
そこまでして見分けたいのかというと、そうでもない。
というか、どうでもいいことだ。
六人がぞろぞろと城内を移動する。
途中、警備の兵や侍従、メイドなどとすれ違う。
護衛騎士の集団に遭遇した彼らは作業中でも道を開け、恭しく礼をしてワタシたちを見送る。
城内の雰囲気は悪くない。
大神官長のおじいちゃんの国葬で少しバタバタしているようだが、みんな落ち着いてそれぞれの仕事をこなしている。
魔王に国を蹂躙されてパニックに陥っているとか、世界の終わりを予感して悲壮感に溢れている雰囲気はない。
毒素が充満しだした元の世界の方が、切羽詰まっていたように思われる。
ワタシたちは順調に城の中を巡っていく。
お遊び気分のお城の見学会ではない。
こっちの世界の文化文明レベルをより詳しく知るためと、逃走経路を確認しておくためのガチな下見だ。
観光気分でフラフラなんて、とんでもない。
異世界脱出の戦いは、すでに始まっている。
なので、ワタシはかなり真剣な表情で、赤髪の専属護衛騎士の説明に耳を傾けていた。
もともとフレドリックくんは職務に忠実で真面目なヒトなんだろう。ワタシが城内に興味津々だったため、さらに時間をかけて、丁寧に対応してくれる。
どこぞのベタベタ王太子と違って、とても誠意のある紳士的な距離間だった。ぜひとも王太子には見習っていただきたいものである。
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