城内監禁となりました
ワタシも急いで元の世界に戻らないといけないから、三十六番目の勇者と同じで討伐はショートカットで済ませたい。
地道な聞き込みを繰り返して魔王の居場所を探し当てるという、面倒な試練はパスしたい。
仲間を捜したり、装備を整えたり、魔王についての情報を集めたり……考えれば考えるほど、ちょっと面倒な作業だ。
勇者の立場にたってはじめてわかることもあるということか。
もう、次からの勇者召喚では、魔王の謁見の間で勇者召喚をやっちゃって、即刻、ワタシを退治してもらうのもアリかもしれない。
なんてことをワタシは考える。
「……というわけで、もろもろの件が落ち着くまでの間の世話は、リニーに任せている。護衛騎士もつける。『城内の限られた場所』にはなるが、護衛騎士の同行があれば、マオは自由にしてくれてかまわない」
「わかった」
ワタシは素直にうなずいた。
(城外はだめなんだな……)
つまるところ城内監禁にほかならないが、『部屋から一歩も出るな』よりはマシだろう。
その後、ワタシを警護する護衛騎士との顔合わせが行われた。
本来ならワタシの身だしなみが整ってからの紹介となるのだが、昨日の事件があったので一刻でも早く、ということらしい。
なによりもエルドリア王太子が自分で紹介したいというワガママから、寝着に上着を羽織った状態での引き合わせとなった。
まあ、ワタシは深層の令嬢ではなくて、引きこもり気味な魔王なので、護衛騎士に寝間着姿を見られるくらいは平気だ。
ワタシの護衛騎士は四人。
四人が四人とも見目麗しい若者なのだが、エルドリア王太子と並ぶと凡人のように見えてしまうから不思議だ。
エルドリア王太子効果はすごすぎる。
見事な燃えるような赤髪と赤い瞳の青年が、ワタシの専属護衛となるらしい。
残りの三人は彼の部下だという。
この四人が交代でワタシの身辺警護をしてくれるそうだ。
賓客室への入室チェックや周囲の警戒警備は、また別の騎士が担当するらしい。
専属護衛はフレドリック・ラーカスと名乗った。
三人の部下は、オレンジの髪、茶色の瞳の全く同じ顔、同じ背丈の若者だ。
もう、確かめるまでもなく兄弟だろうと思ったのだが、三つ子だという。
長男がデュース・カッツイ、次男がユーリス・カッツイ、三男がリィクル・カッツイだという。
ぱっと見ただけでは誰が誰だかわからない。仕草まで同じという、完璧な分身状態だ。
わざと見分けられないようにしているのかもしれない。
この四人、なんだか雰囲気が似ているなぁと思ったら、従兄弟だそうだ。
それにしても、専属護衛のフレドリック・ラーカスと名乗った若者は、どこかで見たような顔だ。すごく気になる。
「フレドリックくん、どこかで会わなかった?」
最初の言葉がいきなりコレでは相手も驚くだろう。
フレドリックくんは少しの沈黙の後、軽く頷いてみせる。
「勇者様は、騎士団長とご歓談されましたよね?」
歓談……というほどではないが、騎士団長がパステルカラーのお菓子をもぐもぐしているシーンは観察していた。
「騎士団長フレディア・ラーカスは、わたしの実父です。親子なので、似ているのでしょう」
「へえ! そうなんだ」
フレドリックくんは、あのワイルドイケメンと親子なのか。
九人兄弟の五番目の息子になるらしい。
髪色、瞳の色、ついでに体格は似ているかもしれないけど、顔はきっと、お母さまに似ているんだろうな。
父親と全く似ていないとは言えないが、そっくりというわけでもない。
と、ここで、リニー少年がこの国の宰相に似ていたことに気づいた。
聞いてみると、やはりリニー少年は宰相の息子だそうだ。天使なリニー少年が成長したらあんな風になっちゃうんだろうか。想像したらちょっと怖くなった。
ちなみに、リニー少年は八人兄弟姉妹の末っ子だそうだ。
三つ子くんたちは三人兄弟らしい。
そして、エルドリア王太子はひとりっ子だ。
……いや、ワタシが知りたかったのは、兄弟姉妹の人数じゃない!
「フレドリックは勇者召喚の儀式にも立ち会っていたし、そこで姿を見かけたのかもしれないぞ」
納得していないワタシに、エルドリア王太子が説明を加える。
そうなのかもしれない。
そんな気がしてきた。
「この四人はわたしの専属護衛騎士の中でも特に優秀で、信頼のおける人物だ。フレドリックの弟とわたしは乳兄弟でもある。ラーカス家とは幼い頃より交流があり、気心が知れた仲だ。彼らの忠義は間違いないから安心してくれ」
「ちょっと……王太子殿下の護衛騎士の中から、四人も人員を割いて大丈夫なのか?」
王太子殿下にどれだけの専属護衛騎士が割り当てられるのかは知らないが、そこから移動させて大丈夫なのだろうか?
「いや。これでも少ないくらいだ」
キリリとした顔でエルドリア王太子が断言する。
おいこら、どんな警備体制にするつもりなんだよ。
数の問題ではない。
騎士団長の血縁とか、乳兄弟が身内にいるとかなると、その人物は近臣レベルだろう。
いざというときは、彼らが盾となって、王太子を護る存在だ。最後の砦といってもいい。
手放してはいけない者たちをワタシにつけて、自分の身辺は大丈夫なのか?
というか、本当にこのヒトたちは、ワタシの護衛なのだろうか。
ワタシが逃亡しないかどうかの見張りとかじゃないだろうな?
そんなことを胸に秘めながら、顔合わせが終了する。
「マオと共にいることができないと思うと、胸が張り裂けそうだ」
そんな恥ずかしい科白を吐き出し、エルドリア王太子は、何度もワタシの方を振り返りつつ部屋からでていった。
いやいや。エルドリア王太子よ。胸というものは、こんなことぐらいでは張り裂けないから安心してくれ……。
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