犯人は誰だ?
魔王が誕生した!
大神官長が死んだ!
そして、大神官長が己の生命と引き換えに異世界から勇者を召喚した、おまけに、国王は病に倒れて伏せっている!
……などの情報が一気に放出されるとなると、国民には少し刺激が強すぎそうだ。
ワタシのいた世界だと、間違いなく、大騒ぎになっている。
……まあ、それだけ話題が揃えば、この世の終わりがきた、と言い出すヤツもでてきそうだ。
情報の統制は必要だ。
「国葬は数日続くからな。よき日をこちらで選ぶので、そのときに大神官長を見送ってくれ。その日が決定したら知らせる」
「わかった」
隠し続けることは難しいから、タイミングがよい時期に、当たり障りのない内容で、ごく限られた範囲に、ワタシは紹介されるのだろう。
無理して自己主張する必要もないし、ここは素直に王太子、いや、宰相の考えに従うことにする。
「それから……昨日の肉食花の件なのだが」
エルドリア王太子の顔が曇る。
「あ、あの……ええっと、ウィリアム……くん、だったっけ?」
頭部(?)を失って、ついに枯れちゃったんだろうか?
「その……まだ犯人が捕まっていないのだ。申し訳ない」
「は? 犯人?」
ということは……。
「肉食花は非番のときは、頑丈な鍵付きゲージの中で待機しているのだが、その鍵が破壊されていた。鍵が壊れて強引に扉が開けば、警告が庭師たちに通知されるのだが、そのシステムも破壊されていた」
「えっ?」
「それから肉食花の警備巡回コースは、肉食花が好む匂いをしみ込ませた誘導杭を設置してコースを設定しているのだが、昨日は賓客室の温室内にその誘導杭が発見されたのだ」
「…………」
エルドリア王太子の声がだんだん小さくなっていく。
「そして、ウィリアムの液体肥料には、肉食花が好む高濃度の興奮剤が混入されていた……と報告があがったのだ」
肉食とはいえ、植物に分類するウィリアムくんが、単独でそのようなことはできないだろう。
「通常濃度の興奮剤なら、庭師や近衛騎士たちの命令に従うのだが、あの濃度になると、王族の命令にしか従わない。使用が禁止されている濃度だった」
こんな『たまたま』な『偶然』などあるはずもない。
手引きした人物がいるということだ。
しかし、色々と準備はしたようだが、その痕跡を隠すことは考えていなかったのかな?
ずいぶんと乱暴なやり方だ。
少なくとも『事故』に見せかけた犯行ではないようだ。
「なるほど……だから、犯人なんだな」
「すまない」
エルドリア王太子はシュンとうなだれる。
困った……。
その姿にキュンときちゃったよ。
「その……犯人なのだが、候補が沢山ありすぎて絞れないのだ」
「……え?」
(そ、そんなこと、馬鹿正直に申告してどうするんだ! 王太子殿下! 口が軽すぎるぞ!)
後ろに控えていたリニー少年の顔が、ものすごく引きつっているじゃないか!
「動機に関しても色々ありすぎて絞れていないのだ。マオを狙ったものなのか、わたしへの嫌がらせなのか、王家の威光を傷つけようとたくらんでいるのか、まだわからない」
調査報告をそのままワタシに伝えてどうするんだよ! 軽いのは口か? それとも頭か? どっちも軽そうだな。
「この先もマオが狙われる可能性がある。怖い思いをさせて申し訳ない」
安心してくれ。ワタシは昨日まで勇者に狙われていたから、そういうのには慣れている。
まあ、あの肉食花のフォルムには驚いてしまったが。
「それは大丈夫だ。己の身は己で護るくらいの心得はある」
謙遜した控え目な表現にする。
なんといっても、ワタシは魔族の頂点に立つ魔王だからな。
勇者には勝てないけど、それ以外には負けないよ。
王太子殿下はゆっくりと首を振る。
「いや、そういうわけにはいかぬ。国葬が終わっても、事後処理でしばらく慌ただしいかと思う。それに、その……魔王討伐を依頼する前に、こちらの世界の魔王について、もう一度、調べなおす必要があると思うのだ」
確かに、こちらの世界の魔王の件については、再調査をお願いしたいところだ。
再調査のついでに、魔王の居城もつきとめてほしい。
昨日、寝る前にちょっと同業者の気配を探ってみたのだが、ワタシの検索範囲内にはひっかかってこなかった。
圏外に魔王がいるのか、まだ魔王が幼すぎて魔王の威厳が微量すぎて検索にひっかからなかったのか。
魔王を討伐する必要がないのが一番ありがたいんだが、今の状態で『魔王を倒す旅』などを始めてしまうと、どっちに進んでいいのかすらわからない状態からの出発になりそうだ。
それは嫌すぎるからな。
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