まさかの急展開
「亡くなったのは、大神官長だ」
(えええええええっ! な、なんですってぇ! 聞き間違いじゃないわよね?)
「えーっと、大神官長様って、もしかして……昨日の?」
「ああ。昨日、マオを召喚した大神官長だ」
(噓でしょ? いきなり知人死亡イベント発生なのっ!)
異世界に召喚されてまだ二十四時間もたっていないのに……。
(なんという急展開! どうなっている! ミスッターナ!)
予想していなかった。でも、言われてみれば、妙に納得できる人物の死亡報告に、ワタシはしばし呆然とする。
今にも死にそうな――実際に、死んでしまわれたが――ヨボヨボのおじいちゃんに、負荷のかかる高レベル秘術を使わせたのだ。お亡くなりになっても違和感はない。
不思議ではないのだが、召喚者が死んでしまった……。
これは偶然なのだろうか。
それとも、なにかの陰謀なのだろうか。
こういうときって、どうしたらいいんだろうか?
一度しかお会いしていないが、異世界では数少ない知人だ。それに、不本意ではったが、異世界召喚で大変お世話になったヒトなので、葬儀にワタシも参列した方がよいのだろうか?
あまりの急展開に思考がついていかない。
いやいや。それよりもなによりも、勇者召喚術に関する知識はちゃんと、次の世代に受け継がれているのだろうか?
他にも召喚術が使える者がいれば、今にも死にそうな老人にさせるよりも、もっと元気そうなヤツにさせるよね?
少なくとも、ワタシならそう命令するよ?
大神官長のおじいちゃんが死んだことによって、勇者召喚術が使えるやつがいなくなったって……ことはないよね?
この世界のヒトたち、引継ぎちゃんとできてるよね?
自分の世界に戻る方法を一番知ってそうなヒトが、いきなり手の届かないところに逝ってしまわれた……。
(幸先のよい異世界ライフのはじまり……とはいかないようね)
暗雲たる気持ちで王太子を見下ろしていると、またカ――ン、カ――ンという、鐘の音が聞こえた。
「……もしかして、あの鐘の音は?」
「故人を悼むモノだ。今日は一日中、鳴り続ける」
煩いだろうが、我慢してくれ、とエルドリア王太子に言われたが、故人を悼む鐘の音にケチをつけるほど、ワタシの心は狭くないよ。
「ちなみに、死因は……?」
まさか、勇者召喚失敗という役立たず認定で処分……ではないだろうな?
ありそうでちょっと怖い……。
聞くのは怖くて嫌だが、知らないままというのもモヤモヤする。
「老衰だ」
「……本当に?」
「間違いない。大神官長は、国で最高齢の御方だ。それだけ長く生きれば、色々と持病を併発されている。老いた身であるから、大神官長としての責務も、勇者召喚も負担だっただろう。だが、老衰で間違いない。天寿をまっとうされた」
う――ん。
にわかには信じられない。
大神官長様は、ヨボヨボのおじいちゃんではあったけど、昨日の限りでは、危なっかしくても、まだ数年は大丈夫なかんじだった。
お菓子ももぐもぐ食べてたもんね。
勇者召喚で無理をしたとか、無理をして勇者召喚したのに、召喚したヤツが魔王だった……というショックとかストレスで、ポックリいっちゃいました、という説明の方がしっくりするんだけど……。
ワタシは疑いの眼差しでエルドリア王太子を見つめるが、王太子は『老衰説』を貫くつもりでいるようだった。
「大神官長様の葬儀なら、ワタシも参加……したいかな?」
「…………」
疑問形になってしまったが、今後の展開を探るためにも、神殿訪問は必要だろう。
葬儀でバタバタしている隙をついて、コッソリとアレコレ調べさせてもらってもいい。
王太子は沈黙する。
その沈黙に、ワタシは、自分の立場の微妙さを悟った。
「マオの気持ちはありがたいが……。勇者が召喚されたことは、まだ正式に発表していないのだ」
「ああ……なるほど」
まあ、昨日があんなぐだぐだな感じだったから、おいそれと発表なんてできないだろうね……。
宰相の判断だな。
「こんなことが起こってしまった以上、これ以上、民を混乱させたくないのだが、王城にいた者は、昨日に異世界召喚がされたことをすでに知っている」
ワタシは反論せず、黙ってうなずく。エルドリア王太子の考えも納得できる。
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