閑話 はじまりの物語り――瀬名川 慎也(せながわ しんや)
妹
――登場人物紹介――
▶希崎 怜那(きざき れいな)
高校一年生。カワイイ系。
真緒とは幼馴染みなのだが、それ以上の関係になりたいと、アプローチ中。
▶瀬名川 真緒(せながわ まお)
高校一年生。美少女。
旧姓は藤谷(ふじたに)。
怜那とは幼馴染みで、家も近所だった。
中学三年生のときに母親が再婚し、引っ越しした。
**********
オレ――
ブチ切れる寸前にまでなっていた。
学校が休みにもかかわらず、生徒会長の
しかも、集合場所は生徒会室ではなく、この巨大ショッピングモールだった。
その指定に違和感があったが、他のメンバーたちも了承していたので、オレは意を唱えることはしなかった。疑問も飲み込んでしまった。
今となっては、そのことをすごく後悔している。
だが、前日に急用が入ってしまい、オレは市川に欠席の連絡を入れた。
入院していた祖父が退院し、その見舞いに家族全員で来いと言われたのだ。
性格が悪い祖父は嫁いびりをしたいのだろう。
再婚して間もない母や可愛い妹を、祖父たちの嫌味から守ってやらなければならない。
オヤジに任せておけば大丈夫だろうが、万が一ということもある。他の親戚も集まっていたら、オヤジひとりでは対処できない場面もでてくるだろう。
オレは強引で傲慢な祖父と、祖父をとりまく大人たちが大嫌いだった。
あの家に行くと、息が詰まる。
オヤジも自分の父親を嫌っている。
できることなら、祖父の見舞いにはオヤジだけで行って欲しかったのだが、そうもいかなかったようである。
生徒会の仕事と新しい家族、どちらが大事かといえば、もちろん、新しい家族だ。
オヤジが数年かけて口説き落としたという新しい母親はとても綺麗で、優しい女性だった。血のつながっていないオレに対しても誠実に接してくれている。
そして、母親の娘――真緒――はとても無邪気で可愛かった。目に入れても痛くないほど愛おしくて、大切にしたい妹だ。
そう、妹。
マオは妹だ。
可愛い、可愛い、誰よりも可愛い妹だ。
オレの通う高校にマオも合格したので、一緒に登校しているし、下校のタイミングが合えば、一緒に帰宅している。
難関といわれている私立高校だったので、塾に通っていなかったマオは苦労したようだが、それでも合格したのだから正直なところ驚いてしまった。
オレのことを「お兄ちゃん」と呼んでくれて、勉強を教えてやると、とても喜んでくれた。
寝る前にオレの部屋でマオに勉強を教えるのが日課になった。
オレたちは昨年の冬ごろから新しい家で暮らし始めたのだが、マオも新しい母も新居に持ち込んだ荷物はとても少なかった。
娘の将来のことを考えて、倹約生活をしていたのだろう。
再婚で舞い上がっていたオヤジは、ふたりに色々なものを購入することからはじめた。
オレもそれに便乗し、母のものは父が選び、マオのものはオレが選んだ。
オヤジの金銭感覚に母とマオは困惑していたようだが、オレたちはとても楽しかった。
母は「そういうつもりで結婚したわけじゃないのに」と、すぐになんでも買いたがるオヤジをたしなめている。
でもまあ、オヤジの気持ちもわからなくもない。
母は嫌がったが、マオは素直に「ありがとう」と言ってくれて、喜んでくれた。そして、オレたちが選んだプレゼントを大事に使ってくれている。
新しい生活が始まると、オレはマオの作ったお菓子を食べたり、一緒にテレビを観たり、ゲームをしてみたり。
お互いひとりっ子だったこともあり、世間一般の兄と妹がどういうことをするのかわからないまま、オレたちは色々なことをやってみた。
休日は家族で外出することもあれば、新婚夫婦の邪魔をしないよう、オレとマオだけででかけることもある。
マオの好きなアニメ映画の上映がこの連休からはじまったので、今度ふたりで観に行く約束もしている。
家族が増えたことで、オレとオヤジのつまらなかった人生が明るく、楽しいものになった。
ふたりがいない生活にはもう戻れない。
オヤジとふたりだけだったころ、オヤジの帰宅は夜中になることもあったので、オレはひとりでいる時間がとても多かった。
ひとりでオヤジの帰りを待つのは、寂しかったんだと思う。
高校三年生の男子が女々しいと思われるかもしれないが、寂しい生活はもういやだ。ひとりぼっちで夜を過ごすのは、もう終わりにしたい。
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