異世界の庭師

「マオ、大丈夫か? 怪我はないか?」

「ドリア……大丈夫だ。ちょ、ちょっと、驚いただけだから……」


 そう。驚いただけである。

 庭師さんたちの思考に。


「本当に、大丈夫なのか? 奇妙なこともあるものだ。ここまで彷徨いでてくる子は、めったにいないのだが……。どうしたんだろう?」


 ドリアは不思議そうに眉を顰めている。


(いや、こんな襲撃がしょっちゅうあったらマズイだろ! ここ、賓客室だろ? こんな穴だらけな警備体制で賓客は大丈夫なのか?)


「マオにはとても怖い思いをさせてしまったな。悪かった。庭師には厳しく言って、明日から肉食花の『躾』を徹底させる」


(やっぱり庭師が、アレを育てているんだよね……)


 異世界の庭師って……ワイルドすぎないか?

 命がけの職業になるのか、漂っている気配もどことなく一般人とは違う。

 ワタシのいた世界と、こちらの世界の庭師は、業務内容が異なるようだ。


「マオを襲った個体ウィリアムは、不適合株として、処分させる。安心しろ。もう二度とこんなことはない。させないから」


(でた! 処分!)


「ど……どうやって、処分するんだ?」


 試しに聞いてみようか。


「焼却処分だ」


(火炙りか!)


 まあ、ワタシも焼き払おうと一瞬だけ思ったけどね。


「あるいは、枯らして、ドライフラワーにするか……。それとも、切り刻んで、堆肥にするか……」


(餓死に八つ裂き……)


 ワタシはプルプルと震え上がる。


「原因の特定が終了してからにはなるが、庭師と相談した上で決定する。重要な証拠だから、保管義務があるのだ。その間、ウィリアムは冷凍室に幽閉しておくから、安心してくれ。マオを再び襲うことはない」


 めっちゃくちゃ爽やかな笑顔を浮かべながら、そんな怖いことを言わないでほしい。


 相手が植物だからそうなのか、人間であってもそうなのか……怖くて聞けない。


 ただ、庭師までには累が及びそうにもないので、一安心だ。


 ……と思ったワタシが甘かったよ。


「不適合株を放置した庭師は、庭師団長ともども即刻処分するので、マオは安心してくれ」


(んなもん、安心なんてできるか! しかも、複数形じゃないか! 連座だと!)


「いや、ちょっとまて。誰だってミスはあるもんだろ? アノ肉食花……ウィリアム殿とは、たまたま運悪く遭遇してしまっただけで……。次から気をつければいいんじゃないかな?」


 だから、安易に処分するのはやめましょうよ、とエルドリア王太子に意見する。


「マオは優しいな」


 ワタシの言葉に驚いたようだが、王太子はすぐに微笑みを浮かべる。


「勇者様の寛大なる御心に感謝いたします」


 そう言いながら、王太子はワタシの手をとり、甲にチュッとキスを落としたのである……。

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