真のオモテナシを体感せよ!

 案内された浴室は、大浴場ではなく、部屋に備え付けられているタイプのものだった。


 浴室もものすごく豪華で、なぜか、前面はガラス張りになっている。

 ガラスの先は温室になっているのか、色とりどりの花々が咲き誇っている景色が広がっていた。


(な、なんて眩しすぎる空間! 目が潰れそう! ど、ど、どうしよう。こ、これが、真のオモテナシというものか!)


 異世界の浴室すごすぎる。


 入浴だけではなく、くつろげるスペースも設けられており、寝台やらリラックスできるソファ、テーブルセットなどが配置されており、とても贅沢な空間になっていた。


 魔王としての威厳を保ちつつも、この、キラキラでラグジュアリーな空間に、今の状況も忘れて期待値が爆上がりしてしまう。


 ワタシだってオンナノコなのだから、お風呂とか嫌いじゃないし。

 このところ、三十六番目の勇者対応で、烏の行水みたいな状態だったし。


 お風呂万歳!


 リニー少年が、入浴の介添えを申しでてくれたのだが、ワタシは「ひとりで大丈夫だから」と言って、彼の手助けをやんわりと断った。


 ワタシは魔王だから、召使いに囲まれての生活は慣れており、異性も同性もさほど気にならない。


 とはいえ、ワタシに近づくことを許していたのは、気心が知れた、いわゆる素性がはっきりとした者だけだった。


 なので、相手がまだミルクの匂いがするような少年であっても、異世界の、しかも初対面の異性相手に、素肌を晒すのには抵抗がある。


 それについてはリニー少年も理解してくれたようで、お役に立てないようでしたら、処分どうのこうの……という話にはならなかった。


 安心した……。


 だが、脱衣所に入り、己の姿を大きな鏡で見た瞬間、ワタシは自分の敗北を悟ってしまった。


「リニーくん……」

「はい? 勇者様、なんでしょうか?」


 脱衣所からすぐにでてきたワタシを、リニー少年は不思議そうに眺める。


「じつは……」


 そこまで言いかけて、ワタシは口を閉じる。

 恥ずかしくて、なかなか次の言葉がでてこない。


「はい?」

「この服……ひとりじゃ脱げないやつだった」

「…………」

 リニー少年は黙ってワタシの顔を見ている。

 顔を見て、ワタシが着ている豪華な衣裳を上から下まで観察する。

 沈黙がいたたまれない。


「……わかりました。入浴のお世話をいたしますね」

「すまないが……よろしく頼む……」


 こうして、ワタシはあっさりと、リニー少年の存在を受け入れてしまったのである。

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