勇者と魔王の密な関係

 大神官長のおじいちゃんは『一番強いもの』イコール『勇者』という考えのようだ。


 残念ながら、その条件だと勇者じゃなくて、ワタシの方が召喚されてしまう……。


 と、ワタシが説明すると、騎士団長のおじさんが「なんと、異世界では、勇者よりも魔王が強いのか! 救いのない世界だ!」とか呟いていた。


 まあ、そういうことで……ワタシがいた世界で一番強いのは、魔王であるワタシだ。


 ワタシよりも強い者がいないから、異世界から、ワタシを倒せる力を持つ者を、ミスッターナは召喚するのだよ?


 だから、異世界の人間である勇者は、『その世界』とは違う世界のカテゴリになるのだ。


 仮に、勇者も『その世界』にいる者として認識されても、総合的にみてワタシの方が強いから、ワタシが召喚されてしまう。


 ワタシのいた世界では、『魔王粉砕』という、ワタシの肉体を消滅させることができるスキルを、聖なる善神ミスッターナから授けられた者が、勇者と呼ばれる存在になる。


 理由はよくわからないけど、聖なる善神ミスッターナは、異世界人にしか、そのスキルを授けることができなかった。


 そして、スキルだけでなく、そこに女神の加護もあわさって、はじめて魔王を討伐することができる仕組みになっているんだよ。勇者単体ではワタシは倒せない。


 もちろん、勇者に選ばれるのだから、前提条件として、ワタシとの戦闘に耐えうるだけのスペックを備えているよ。

 神様がバーゲンセールみたいに、バンバン惜しみなく与えちゃうからね。


 とはいえ、ワタシの方が強いことにはかわらないんだけどね。


 世界の魔素を大量に取り込めるスペックと、三十六回も魔王をやっている経験値が加算されていくから……ミスッターナにいわせれば、そのうち、神の領域に到達してもおかしくないくらい……だそうだ。


 神様はニコニコと笑いながら「魔王ちゃん、安心してね。魔王ちゃんが魔神に進化したときは、ボクが責任を持って、魔王ちゃんを従神として迎えてあげるよ。かわいい魔王ちゃんを露頭に迷わせることだけはさせないからね」と引退後のプランとやらを提示してきた。


 いや、お断りだ! 隠居してもミスッターナの下僕になるくらいなら、露頭に迷う方が断然いいに決まっている!


 ワタシは自由な左手で痛む頭を抑えた。


「勇者様が、この世界に召喚された理由……納得していただけたようですね?」


 王太子が嬉しそうに言う。


(いやいや、この様子のどこが、納得している姿に見えるのよ?)


 エルドリア王太子の目は節穴か!


「……納得はしていないが、なぜ、ワタシが拐かされて、この世界に拉致されたのかは、よく理解できた。だが、ワタシが勇者であるというのは、納得できない!」


 召喚されたとき、至高神アナスペアとかいう神の声は聞いていない。「よろしくお願いします」っていう挨拶ぐらいあってもいいと思う。


 まだ、ポンコツではあるが、ミスッターナの方が、そういうことに関してはマメだし、召喚後の勇者のサポートも、ちょっとウザすぎるくらいしっかりしているよ。


「そもそも、どういう理由があって、魔王を討伐しないといけないのだ? 被害状況は?」


 ワタシのなにげない質問に、一同の表情がぴたりと固まった。


 まずいことを聞かれたというよりは、ワタシの質問の意味が理解できない……というような反応だ。


 予想していなかった一同の反応に、ワタシのほうが焦ってしまったよ。


「……魔王というものは、討伐されてしかるべき存在でしょう?」


 宰相が一同を代表して答える。


「そうなのかもしれないが、ワタシが知りたいのは、なぜ、ここの世界の魔王は、勇者に討伐されないといけないのだ?」

「魔王……だから……では、駄目なのでしょうか?」


 エルドリア王太子が、こってっと首を傾けながら、ワタシに質問する。


「仮に、ワタシが勇者だとしても……いや、魔王なワタシが勇者だというのなら、そこは、はっきりとさせておきたい」


 この瞬間、ワタシはこちらの世界の勇者だと、半分だけ認めてしまったことになるが……これもそれも、さっさと元の世界に戻るためにはいたしかたない。


「そのようなことをおっしゃるからには、勇者様のいらっしゃった世界では、魔王……様……が、勇者に討伐されるには、理由があったというのでしょうか?」


 宰相さんの方が柔軟性があるようで、ワタシが魔王であることを認めたようである。


 若くして宰相の地位についているだけあって、気持ちの切り替えが早い。なかなか出来るヒトのようである。


 好きにはなれそうにもないが、こういう人物が補佐についていてくれたら、政務もはかどるだろう。

 常に後ろから刺されないか、ドキドキしながら生きないといけないだろうけどね。

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