誰を召喚したんだ!
「……まずは、なにからお話しましょうか?」
菓子の量が半分くらいに減り、全員が落ち着いた頃を見計らって、王太子がワタシに語りかける。
「いや。それよりも、なによりも、話を始める前に、まずは、この手をだな……」
「実は、五年ほど前に、魔王が誕生した兆しが……」
いきなり話を始めるエルドリア王太子。
(ちょっと! ワタシの言葉はスルーなの?)
ワタシを無視し、エルドリア王太子の説明が終わる。
「まあ、色々と、そちらの事情はわかったが……」
ワタシはゆっくりと口を開く。
「こっちにだって、こっちの事情というものがある」
「はい。こちらにも、こちらの事情があります」
「…………」
ワタシの溜息と落胆は大きい。
どこの世界も大変なようで……。
エルドリア王太子の話をまとめると……。
魔王が誕生した。
魔王は強い。
この世界の戦力では、どんなに頑張っても魔王は倒せないだろう。
だったら、神様の力を借りて異世界から勇者を呼ぼう……と考えて、実行した。
ということらしい。
あまりにも……他力本願的すぎる。
いや、まあ、ワタシがいた世界も同じようなものだから、偉そうなこともいえないのだけど。
さっきまで三十六番目の勇者と戦おうとしてたところだし。
しかし、どうして、世界を救う勇者ではなく、魔王であるワタシが喚ばれたのか?
「なんども言うが、ワタシは勇者じゃない。魔王だ」
「いえ。なんども言いますが、至高神アナスペア様のお力をお借りして召喚されたマオ様は、間違いなく勇者様です」
(平行線だ……)
ワタシのいた世界でも、「おめでとうございます。あなたは魔王を倒す勇者に選ばれました」と言われて、世界のためとか、ゲームの世界みたいだ、とか喜んで勇者役をあっさり受け入れる勇者もいる。
その逆に、「ワタシは勇者じゃない。ワタシのいた世界に帰せ」と駄々をこねる勇者もいる。
ワタシは間違いなく後者のタイプの勇者だ。
魔王だけど……。
そもそも、ワタシがいた世界では、ワタシの勇者が魔王であるワタシを待っている。
いや、絶対に、待っているはずだ! できれば待ってて欲しい!
早く帰還して、魔王としての役割を果たさなければ、ワタシのいた世界の方が先に滅んでしまう。
魔王のワタシを倒さないと、勇者だって自分の世界に帰れないのだ。
だが、少なくとも、目の前の王太子は、ワタシを解放してくれそうにもない。
ワタシは王太子ではなく、大神官長のおじいちゃんに視線を定めた。エルドリア王太子との対話はあきらめた。
「ワタシを召喚した魔法陣。あれは、本当に、勇者を召喚する魔法陣だったのか?」
「……といいますと?」
「言葉通りの意味だ。魔法陣は? 呪文は? 祈りは? 全部、勇者召喚のものだったのか?」
最初から、話が通じる他のヒトを探し出して話せばよかったのである。
選択肢が少なすぎるが、この中で一番、真面目で、誠実そうなヒトを選ぶ。
騎士団長は……ちょっと脳筋っぽそうな気配がしたので、パスだ。
ちなみに、ワタシの中では、王太子と宰相さんは、すでに『話が通じないヒト』認定されている。
大神官長のおじいちゃんは、長い長い沈黙の後、ようやくワタシの質問の意味を理解したのか、うん、うん、と頷きながら、真っ白な顎髭をなでる。
「……その世界で『一番強い者』を召喚する魔法陣でした」
「……なるほど……」
納得した。
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