大魔法が発動しました

 だから、ちょっと、なんでみんな、そんなに露出度が高い装備?

 寒くないの?

 恥ずかしくないの?


「うおおおおおっ!」


 ビキニアーマーをまとったチョロイン戦士が、最初の一撃とばかりに猛烈な勢いで、ワタシの元に迫ってくる。


 生傷が絶えない前衛職業なのに、そんなに肌を露出して、どうするつもり? 怪我するよ?


(いつものことだけど、わけがわからない……)


 女性陣の中で、肌色部分が一番少ないのは、なんということでしょう! 魔王であるワタシだ……。


 これが魔族とニンゲンのカルチャーの違いというものだろうか。


 今回は勇者ひとりに、女性四人という構成だった。

 少数精鋭というか、旅の途中で増える仲間たち……というイベントもすっとばして、三十六番目の勇者はここまでやってきたにちがいない。


(三十六番目の勇者はそこまで急いで、この討伐を終わらせたかったの……)


 その理由が少し気になるが、それはまたワタシが討伐された後――後日談――でわかるだろう。


 しかし……今回も、女性陣の瞳孔がハートになっている。


 勇者の本命が誰なのか、ということを知るのも、後日談の楽しみのひとつだ。

 やっぱり、今回も安定の聖女サマなのだろうか?


 雛鳥の刷込み現象よろしく、異世界に召喚されて最初に出会うヒロインは、やっぱり有利だろう。不動だ。

 ヒロインブーストもかかっているからねえ。


 なんだけど、ひとりにしぼらず、うやむやのまま、全員と仲良くよろしくやってしまうハーレム勇者も多いんだよな……。


 今回の勇者は、ワタシを倒した後、どういう選択をするのか、今からとても楽しみだ。


 ビキニアーマーの女戦士が、勇ましい声を張りあげながら剣を振りかぶった。


「邪魔だ!」


 魔剣をだすまでもなく、ワタシは素手で戦士の攻撃を張り倒す。

 インドア派魔王の戦闘力をなめるな!

 戦士が勢いよく吹っ飛び、派手な音を立てて、柱にめり込んだ。


 勇者以外は、ワタシと勇者の逢瀬を邪魔する鬱陶しいオプションだ。

 ちまちま飛んでくる矢を魔法で丁寧に弾き飛ばしながら、ワタシは小さく舌打ちする。


 風魔法で一気に振り払いたいところだが、流れ矢が勇者に刺さりでもしたら大変だ。


 今回の勇者は、同行者のサポートを鬱陶しく思っている。

 連携が全くできていないし、ワタシに対する牽制が、勇者の行動を阻む要因になっている。


 正直なところ、魔王を討伐するのには、聖女の『神の加護』だけあればいいんだよね。


 初期の頃の、勇者対魔王の一騎打ちがなつかしい……。

 あの頃は、邪魔するヤツはだれひとりいなくて、勇者との対決だけに集中できた。


 ワタシは一瞬だけ、遠くへと意識を飛ばし、昔を懐かしんだ。


「くそっ!」


(勇者くん、カワイイ顔をして、そんな言葉を使っちゃだめだよ……)


 女戦士が負傷したことで、勇者の怒りがさらに強まったようである。

 対魔王用として創造された聖剣を構えた勇者が、猛然と駆け寄ってくる。


 仲間が傷つき、怒りに燃えた瞳がワタシに向けられ、勇者の視線と魔王の視線が絡み合う。

 ワタシにだけ注がれる、強い想いを秘めた強烈な眼差し。


「でやぁ――っ!」


 勇者が飛んだ。


 勇者補正と、聖女(正確にはミスッターナ)の加護が重なり、宙を舞う姿は、翼でも生えているかのように、とても軽やかだ。


 その凛とした美しい姿に、おもわず見惚れてしまう。


 落下の勢いを使い、勇者はワタシに剣を突き立てようとする。


 ワタシが勇者に討伐されることによって、この世界の秩序は保たれる。


 だが、一撃であっさり殺られるのは、味気ない。


 これから数百年の間、ワタシは肉体を失い、魂の一欠片になって、復活するまでひとりで退屈な時間を過ごすのだ。

 だから、もっと楽しんでから逝きたい。


 今のこの瞬間が楽しくて、自然と笑みが浮かんでくる。


 手を掲げて勇者の剣を振り払おうとした瞬間、いきなり、ワタシの足元に魔法陣が広がった。


「え……?」

「あ……?」


 ものすごく複雑な魔法陣はワタシを中心として、ぐるぐると模様を描きながら広がっていく。


 勇者の驚いたような顔が目に映る。


「な、な、なんなのぉぅぅぅぅぅ!」


 直後、ワタシは眩しい光の柱に飲み込まれていた。

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