リサーチが大好きな神様

「魔王ちゃん、あのね……」

「なんだ?」

「そろそろ勇者を召喚する時期になっちゃったんだけど……魔王ちゃんからは、召喚する勇者に希望ってある?」


 期待のこもったつぶらな金色の瞳が、じっとワタシを見つめてくる。


「希望ねぇ……」

「そうそう! リクエスト! なんでも言って!」


 実は、ここだけの話……。


 毎回、勇者召喚が行われる前に、聖なる善神ミスッターナは、ワタシのところに『召喚される勇者の希望』を聞きにくるのだ。


 神様ってよっぽどヒマなのか、律儀なのか。

 とにもかくにも、聖なる善神ミスッターナはリサーチが大好きな神様だった。


 しかし、希望は聞かれても、ワタシの望みどおりにはならないことが多い。というか、望み通りの勇者が召喚された試しがない。

 想像するに、ワタシの希望が難しすぎてミスッターナのキャパでは処理できないんだろう。


「そうだなぁ。そろそろ刺激が欲しい……かも」


 三十六番目の勇者を想像する。

 

 三十五回も勇者に討伐される、ということをやっているとパターン化してくるというか、ぶっちゃけマンネリ化してきた。


 召喚される勇者を色々と変えたとしても、同行者や道中のイベントに変化があっても、結局、最終は『勇者が魔王を倒す』なので、エンディングはどうしても似てくるのだ。


 つまるところ『ネタ切れ』。


 そう、ネタ切れなのだ。


 みんなが驚く『意外な展開』があってもいい頃ではないだろうか?


 ワタシの希望――刺激が欲しい――を聞いたミスッターナはというと、ワタシの膝から軽やかに飛び降りる。

 腰に手をやり、胸を思いっきり反らす。


「ア――ハッハッハァ!」


 と、高笑いを響かせた。


 どっちが悪者なのか、わからないくらい、悪役っぽい見事な高笑いだった。


 神様のきまぐれで勇者が選ばれ、ある日突然、問答無用で異世界に誘拐拉致されるのだから、ホント、勇者は気の毒である。


「魔王ちゃんの可愛いらしいお願いは、この聖なる善神ミスッターナにお任せあれ!」


 パチン、とワタシにむかって派手にウィンクして、なにやら「キャピッ」とか言いながら摩訶不思議なポーズを決める。

 本人は、「バッチリ決まった」とか思っているんだろう。


 可愛いか、可愛くないのか、って聞かれたら、すごく可愛いから困る。いや、とてつもなく可愛すぎる。

 ワタシは見慣れているからいいけど、初見だとキュン死もありえる。


 だがこのポーズ、神様としての品位というか、重厚さがないのは問題ありだろう。


 勇者世界の魔女っ子変身の決めポーズのまんまコピーだから……。


 ふざけているのか、と怒りたいところだが、本人はすごく真剣だし、めちゃくちゃ再現度が高いから、妙に腹立たしくもある。


「魔王ちゃん! ヘーセーは終わりを告げたんだよ! 今からレーワが始まるから覚悟してね!」

「…………」


 一体全体、なにを覚悟しろと? ワタシの冷ややかな反応にも、少年神はめげない。

 ふふふっ。と笑っている。


 不吉な……。

 不安だ……。


「おぃ! ワタシの望みは『刺激』だ! 『トラブル』じゃないぞ。ミスッターナはそこのところ、わかってるだろうな? それから『トラブル』の意味もわかっているだろうな?」

「モチのロン!」

「なんだ、ソレはっ!」

「ようは、サイコーのアバンチュールを演出したらいいんでしょ?」

「いやそ、……それは違うから!」


 ワタシは、神様の勘違いを訂正しようとしたのだが、時間切れだとかなんだとか言いながら、聖なる善神ミスッターナはワタシの前から慌ただしく姿を消した。





 それからしばらくして、聖なる善神ミスッターナの予告どおり、異世界から勇者が召喚されたのである。





 三十六番目の勇者と、三十五回の復活をとげた魔王との戦いが始まろうとしていた。

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