第30話 三院会議

 『フメフの館』の依頼を達成した後も、クリーンの観光をするでもなく、適当な依頼を受けて時間を潰した。とはいえ、狩場の景色もブルース周辺とは全く違うため、それなりに新鮮な3日間を過ごせたと思う。


 そして迎えた三院会議当日。私とミックは朝の8時前に起きた。会議は9時から始まるらしい。


 私はハンティングジャケットとジーンズに着替え、ミックは鎧のような装備に着替えた。昨日ルルシエルに、「一応護衛なんだから、狩り用のちゃんとした装備で来てちょうだい」と言われたからだ。


 朝食と支度を済ませると、私とミックはホテルを出た。目的地は、城の中にある三院会議の会場である。ルルシエルは色々と準備があるため、朝早くから城にいるらしい。


 城に向かっている途中、ミックが「それにしても、城に入れる日が来るとは思ってなかったぜ。だって、国王の住まいだぜ? 人生何があるか分からないな」と言った。


 それを聞いた私は「確かにそうだな。護衛としてだが」と言った。我ながら一言余計だなと思った。


「そうだな…護衛としてなんだよな…それでも十分すごいとは思うんだが、できれば、強大な竜をやっつけて、SSランク冒険者になって、王から勲章を授かって…みたいな展開がよかったな」


「きっといつかなれるさ」親指を立てて、そう言った。


 ミックも親指を立てて、「そうだな! 今のところは順調そのものだしな! これからも頑張るぜ!」と言った。


 ホテルを出て5分ほどで城に着いた。


 城門を堂々と潜ろうとしたら、衛兵2人に「そこの者止まれ! 名前は?」と言われたので、「私が千葉昌彦で、隣の彼はミック・ジョーンズです。調査院のルルシエルの護衛として来ました」と言った。すると、「それは失礼しました。入ってください」と言われ、城の中に入ることに成功した。


 城内はその外観に違わず広くて、まるで迷路のようだった。恥ずかしながら、どこに三院会議の会場があるのかが分からなかったので、三院会議に出席してそうな人の後ろをついて行った。すると、見事会場に辿り着いた。


 会場は縦横30メートルほどの広さで、それに見合った大きさの、立派な円卓が置かれていた。また、それに見合った豪華な椅子も20脚以上置かれていて、すでにほとんど満席状態だった。遅刻ではないようだが、私とミックはかなり遅い到着だったみたいだ。


 遠くの席でルルシエルが小さく手招きをしているのが見えたので、私とミックは早歩きでそこまで行った。


 私はルルシエルに「遅くなってすまない」と言った。


 ルルシエルは「もしかして来ないんじゃないかと思ってたから、来てくれただけありがたいわ。そろそろ会議が始まるから、他の人の護衛みたいに、私の後ろの方で立てっていて」と言った。


 私とミックは、他の護衛たちのように胸を張って、武器を携えて、会場全体を見張った。


 私とミックが会場に入ってから数分後、王冠を被った国王が、数人の衛兵に囲まれながら会場に入ってきた。会場の空気が一気張り詰めたのを感じた。国王は会場全体が見渡せる位置にある、一際豪華な椅子に座った。その両隣にはルルシエルとレイラが座っている。


 国王は咳払いをして、「フランツ・ロウサーニャの名において、三院会議の開会を宣言する!」と言った。そのたくましい声は会場全体に響き渡った。


 本格的に会議を始める前に、全員が自己紹介をする運びとなった。


 最初に国王が自己紹介をして、その次にレイラが「審判院代表のレイラ・バレンタインです」と言った。相変わらず飄々とした口調だった。


 そして次、我らがルルシエルの番だ。ルルシエルは堂々とした様子で「調査院代表のルルシエル・ローズです。よろしくお願いします」と言った。いつもとは違って、頼り甲斐のある雰囲気だった。


 それからも、なんとか商会の会長やら、なんとか家の当主やら、なんとか学校の理事長やら、様々な人たちが自己紹介をしていった。正直なところ、名前はほとんど覚えていない。ただ確かなのは、全員がこの場に見合うだけの人物だということだ。


 そして、それらの人物の後ろには護衛がそれぞれ2人ついていた。全員硬い表情と所作で、正にお偉いさんの護衛といった風格だった。それに比べて私はどうだろうか。見様見真似でやってはいるものの、上手くできているようには思えない。ミックに関してもそうなのだが、どうしても"冒険者感"が拭えない。まあ、実際本業は冒険者なので仕方のないことなのだが。


 自己紹介が終わると、本格的に会議が始まった。


 外交問題やら、領土、予算やらの様々な議題が、5時間にわたって話された。私には全くちんぷんかんぷんな内容だった。


 ミックが眠そうにしているところを私が小突いて起こすということが3回ほどあったが、眠いのも仕方がないと思えるほど退屈だった。突っ立っているだけというのも楽ではない。


 そんなこんなで、ついに会議が終わった。


 会場が自由に話してもよい雰囲気になったところで、私はルルシエルに「それで、結果はどうだったんだ?」と訊いた。


 ルルシエルは「いい結果を持って帰れそうだわ! 予算爆増よ!」と言った。かつてないほど嬉しそうな様子だった。


 隣にいるミックが、首を鳴らしながら「それで、この後はどうするんだ?」と訊いた。


 それを聞いたルルシエルは「この後は違う部屋で食事会よ。前に言ってなかったっけ?」と言った。


 死んだ目をしていたミックは、みるみるうちに目を輝かせて、「言ってなかったさ! それで、それは俺たちも行っていいんだよな?」と言った。


「ええ。もちろんあなたたちも来ていいわよ。一応、食べ放題飲み放題だけど、あまりやりすぎないでよね…恥ずかしいから」


 ミックが泣きそうな顔で「やったな昌彦…これまでの努力が報われたぞ…」と言ってきた。


 私は「そうだな」と言って、親指を立てた。

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猟師異世界冒険記 PM11:00 @pachimari

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