第27話 世界最強の剣士

 ルルシエルは「待たせたわね。レイラ」と言って、椅子に座った。私とミックは、ルルシエルの両隣にそれぞれ座った。


 レイラが、私とミックをまじまじと見た後、「それで、そこの2人は誰かな?」と言った。


 それを聞いたルルシエルが、どこか落ち着かない様子で「あ、ああ。こっちが昌彦で、こっちがミックよ。今回のローズ雪山の調査で頑張ってくれたの。2人とも冒険者よ」と言った。


「そうか。冒険者か。頑張ってくれ」とレイラが言うと、ミックが緊張した様子で「ありがとうございます」と言っていた。


 会議室に入ってからのルルシエルとミックは、何だか緊張しているようだった。ルルシエルは賄賂を使って私を審判院から解放したわけだし、緊張するのも無理はない。しかし、ミックが緊張するというのはよく分からない。地位という観点では、ルルシエルとレイラはそう変わらないはずだからだ。


 ルルシエルが咳払いをして、「それで、今日ここに来た理由って何なの? まさか、挨拶しに来ただけってわけではないでしょ?」と訊いた。


「そうだね。結論から言うと、10日後に、王都クリーンで"三院会議"が行われることになった。王からの伝言だ」レイラは冷たい口調でそう答えた。


「そう…そろそろだとは思ってたわ。教えてくれてありがとう」


「大丈夫。これを教えるのも私の務めだから。じゃあ、私はこれで失礼するよ。同じエルフ同士頑張ろう」レイラはそう言うと、そそくさと会議室から出ていった。


 レイラが出ていくと、ルルシエルとミックは、肩の荷が下りたような表情でため息をついていた。


「ルルシエルが緊張するのは分からんでもないが、ミックが緊張する理由ってあるか?」私はミックにそう訊いた。


「そうか…昌彦は知らなかったのか。レイラ・バレンタインは、元SSランク冒険者で、世界最強の剣士との呼び声も高い。今は審判院の代表をしているが、冒険者としては雲の上の存在だからな。普段は緊張なんてしない俺でも緊張してしまったよ」


「そんなにすごい人だったのか」


 確かに、レイラが持つオーラとか気迫は、ミックやティカなどの他の冒険者とは全く違うものだった気がする。


 私とミックがレイラについて話している最中も、ルルシエルは一言も喋らず、考えごとをしていた。


 何を考えているのか気になった私は、「何か悩んでいることでもあるのか?」とルルシエルに訊いた。


「あ、いや。三院会議のスケジュールを考えていただけよ」


「というか、三院会議ってのは何なんだ?」と私がルルシエルに訊くと、私に続いてミックも「それについては俺も詳しくは分からないな」と言った。


「三院会議は、不定期で数年に一度開催される、ロウサーニャ王国のこれからを決める会議よ。三院の代表と王はもちろん、他にも貴族や大商人などの国内外の重要人物が集まるわ。調査院の予算とかもこの会議で決まる」


「それって、調査院どころかブルースにとっても重要な会議じゃないか。大丈夫なのか?」


 ルルシエルは、数秒黙って考えた後、「…多分。いや、自信満々よ! だって、あの大鉱脈があるローズ雪山の調査を成功させたんだもの! 今回こそはよい結果を持って帰ってみせるわ!」と言った。


 私は少し笑いながら「いい意気だ!」と言った。ミックもそのようなことを言っていた。


「それで、頼みたいことがあるんだけど…」ルルシエルが少し申し訳なさそうにそう言った。私とミックは「何だ?」と言った。


「三院会議の調査院の護衛として雇われてくれないかしら。ちょうど2人護衛をつけるルールになってるのよ。ほとんど突っ立ってるだけで終わるから! お願い!」ルルシエルが頭を下げて、そう言ってきた。


 ミックが嬉しそうに「それって実質無料でクリーン旅行できるってことじゃないか! 俺は行くぜ。昌彦はどうする?」と言った。


 私は少し考えた後、「じゃあ、俺も休暇がてら行こうかな」と言った。これを断る理由がなかった。


「じゃあ決まりね! 明日の朝の7時、本部前に集合よ!」ルルシエルはご機嫌な様子でそう言った。


 その後、式典会場に戻り、夜の9時まで楽しんだ。宿に帰ると、『調査院の護衛としてクリーンへ行ってくる』というような内容の手紙を書いて、ティカの宿に向けて送った。突然すぎる気もするが、ティカなら許してくれるだろう。


 それから、旅の荷物をバッグに詰めると、明日に向けて眠りについた。


 そして、あっという間に次の日、旅立ちの朝が来た。朝食を食べて、支度を済ませると、約束の時間に間に合うように宿を出た。


 調査員本部に着いた。約束の時間まではまだ余裕があるはずだが、ルルシエルやミックはすでに着いているようだった。


 私はルルシエルがいる所まで歩いて、「やあ。おはよう」と言った。


「ああ。正彦。おはよう。もうみんな揃ったから出発するわよ。先頭の荷馬車に乗ってね」


 私は、ルルシエルの言う通り、先頭の荷馬車に乗り込んだ。


 調査員本部の前に停まっている2台の荷馬車は、王都クリーンを目指して出発した。

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