第25話 昇格試練 後日談

 レストランに到着した。外装と内装共に木造で、客層は冒険者2割その他8割といった感じだった。古風な雰囲気が漂う、落ち着いた店内だった。


 私とティカとカノンは空いている適当な席に座った。私は、この店の看板メニューと謳われている肉のソテーを注文した。ティカとカノンも同じものを注文した。


 私は、机を挟んで向かい側に座っている2人に「それで、ティカとカノンはどういう関係なんだ?」と訊いた。


「Bランクに昇格するときの試練で一緒だったんだよ。それからは、ギルドで会うと話したり、時々一緒に食事をしたりって感じかな」ティカがそう答えた。


「すごい偶然ですよね。ティカさんのパーティメンバーの昌彦さんと一緒になるなんて。2回連続でティカさん関係です」とカノンが言った。


「それにしても、カノンはティカよりもかなり若そうなのに、ランクは同じだったんだな。俺が言えたことじゃないが」私がそう言うと、ティカが少し眉を顰めた。あまり触れない方がよかったのかもしれない。


 それを聞いたカノンが、ティカを励ますように「まあ、冒険者デビューしたときの年齢によって変わりますから…私はかなり早かったので」と言った。


 私は話題を変えるために咳払いをして、「教えたくないならいいんだが、カノンは今何歳なんだ?」と言った。


「別に隠してませんよ…今年で20歳になったばかりです」


「それでも、カノンくらいの年齢でAランクはかなり少ないと思うよ」とティカが言った。


「というか、Aランクの冒険者の割合ってどれくらいなんだ? 実はそういうの全く知らないんだが」


「うーん…ブルースのことしか知らないんですけど、Aランク以上が1.5割といったところでしょうか。Sになると一気に減りますし、SSに関しては見たことすらないですね」カノンが丁寧にそう説明してくれた。


「ならAランクはそんなにすごくないんだな」と言おうとしたが、余計な一言だと思ったので言わなかった。


 そんな会話をしているうちに、注文していた肉のソテーが来た。


 肝心の味についてだが、ティカとカノンは「とても美味しい」と言って食べていた。しかし、私には、ギルドの食堂や酒場で出されている普通の肉のソテーとの味の違いが分からなかった。きっと私は貧乏舌なのだろう。ちなみに、そのときは2人に合わせて「確かに美味しいな」と言っておいた。


 食べ終わると店を出た。その頃にはすっかり夜も深まっており、日中には人が混み合う大通りも閑散としていた。


 私とカノンは家の方向が同じだったため、途中まで一緒に帰ることにした。ティカの宿は真反対だったので、ティカとはその場で別れた。


「今日は楽しかったか?」帰っている途中、私はカノンにそう訊いた。


 カノンは、1日の終わりを惜しんでいるような、少し寂しげな様子で「はい! 昇格試練の時はずっと緊張していて、しんどかったのですが、それが終わってからは最高に楽しい気分です。昌彦さんとも出会えましたし、最高の日でした」と言った。


「それならよかった。これからは、Aランクに相応しい、さらに強いモンスターと戦っていくことになるだろうけど、お互い頑張ろうな」


「ありがとうございます! でも、昌彦さんが危険度Aのモンスター程度に苦戦しているところなんて、想像できないなあ…」


「確かにそうかもな」


「自分でも認めちゃうんですね…まあ、実際強いので、何とも言えませんが…」カノンが少し不服そうにそう言った。


 それを聞いた私は、特に理由もなく笑った。「何で笑うんですかぁ〜!」とカノンが言ってきた。


 宿に着いた。カノンの家は、私の宿よりも少し向こうにあるらしい。「女の子1人じゃ危ないだろうし、家まで送っていこうか?」と訊いたのだが、「Aランク冒険者なので大丈夫です!」と得意げに言って、1人で帰っていった。まあ、彼女ほどの実力なら大丈夫だろう。


(もしかすると、カノンは、私とティカのパーティに入ってくれたりするのだろうか? そうなったら嬉しいな…)そんなことを考えながら眠りについた。


 後日談だが、カノンが私たちのパーティに参加することはなかった。こんな言い方だが、別にカノンが裏切ったわけではない。


 ある日、私はティカに「カノンをパーティに誘わないか?」と相談した。そしたら、「彼女はすでにパーティを持っているから無理だろう」と言われた。


 ティカの話によると、カノンはブルースの中でも最大級のパーティのリーダーをしているらしい。そういうことなら、Aランクに昇格したときのあの人気っぷりにも頷ける。


 結局、私とティカの2人でモンスターを狩るという、なんてことのない日常に戻った。これはこれで悪くないなとも思う。

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