第24話 昇格試練2
「ごめんなさい…無理に連れてきてしまって」冒険者ギルドを出て、大通りを少し歩いたところで、カノンが申し訳なさそうにそう言ってきた。
「別に構わないよ。俺は最初から行く気だったし。というか、カノンこそ大丈夫なのか? 行きたくなさそうだったけど…」
「あぁ…そうでした…どうしよう…」
「まあ、取り敢えず作戦を考えよう。カノンは何を使って狩りをするんだ?」
「薬師なので、毒瓶や麻痺瓶を投げて戦っています。他にも色々とありますよ。目潰し瓶とか火炎瓶とか…」
「バッグに入ってた瓶ってそれだったのか。危ないな…」
「それで、何かいい作戦は思い浮かびましたか?」
「あ、ああ。大体な…」
実のところ、作戦なんてなくとも、血塗れの竜程度なら1人で狩れるのだ。けれど、それだとカノンのためにならない。我ながら年寄りみたいな考えだな…とにかく、大森林に着くまでに、カノンも活躍できるような作戦を考えなければならない。
「流石ですね昌彦さん! 見るからにベテランそうですし、ちゃちゃっとやっちゃってくださいよ!」カノンが元気にそう言ってきた。
「ああ。任せてくれ。この街1番のベテランだからな」私はつい調子に乗ってしまい、そんなことを言ってしまった。そんな私を、カノンはキラキラした目で見ていた。
それから、2時間ほど歩いてブルース大森林に到着し、そこからさらに森の中を歩いて、ようやく血塗れの竜を見つけた。
血塗れの竜は、道から少し逸れた森の中で眠っていた。前に狩った2体に比べると、体色が少し青っぽかった。
カノンが茂みの奥にいる血塗れの竜を見ながら、怯えた様子で「ひえぇ…本当にいますよ。怖いなぁ…」と言った。
「また怖くなったのか?」
「当たり前じゃないですか…血塗れの竜に殺されたって話なんて、毎日のように聞きますから…」
「じゃあ、引き返すか?」
「…いいえ。今やらないといつまで経ってもやらない気がします。やりましょう!」
「そうこなくちゃな」
「それで、肝心の作戦はどうするんですか?」
私は、かなりよい作戦を思いついていた。
「これを使うんだ」私はそう言って、バッグからある物を取り出して、見せた。
それは、モンスター用に改良されたくくり罠だった。前職が猟師だったため、(これは必要だろう)と思い、店でそれらしいパーツを買い揃えて手作業で造り上げたのだが、いまいち使う機会がなかった。
カノンが不思議そうに「それは何ですか?」と訊いてきた。
「これはくくり罠という種類の罠だ。これを踏むと、この輪っかが標的の足に引っかかって、その場で倒れるという仕組みになっている。森の中から誘き出して、これを踏ませよう。そこに麻痺瓶を投げてから一斉攻撃。どうだ?」
「よく分かりませんがすごそうですね…それでいきましょう!」
「じゃあ、仕掛けるから少し待っていてくれ」
私は慣れた手つきでくくり罠を仕掛けた。上手く作動するといいんだが…
「これでよし。早速、血塗れの竜を誘き出そうか」仕掛け終えてそう言った。
「でもどうやって誘き出すんですか?」
私は銃を構えながら「今から誘き出す。耳を塞いだ方がいいぞ」と言った。それから、素早く血塗れの竜を狙って、引き金を引いた。
その瞬間、耳をつんざくような銃声が辺りに響いた。森の木々に止まっていた鳥たちは空に飛び立ち、銃弾をくらった標的はのそりと起き上がってこちらを睨んだ。
隣で銃声を聞いたカノンが、少し怒った様子で「び、びっくりしたあ! いきなり何ですか!」と言ってきた。
私は、ライフルから近距離用の散弾銃に持ち替えながら「そんなことより、少し離れて麻痺瓶の準備をしてくれ。やつが来る」と言った。
標的は、ドシンドシンという重たい足音を立てて、こちらに向かって走ってきた。私とカノンは、標的が森から出てきて罠にかかるのを、緊張した様子で待った。
重たい足音や草木を踏み潰す音が次第に近くなってきた。私はゴクリと唾を飲んだ。
森から姿を現した標的は、「グガァァァッ!」という鳴き声をあげながら倒れた。罠が上手く作動してくれたのだ。
「今だ! 麻痺瓶を投げてくれ!」
「言われなくてもそうしますよ! くらえ! 麻痺瓶!」カノンはそう言いながら、標的の頭に向かって思い切り麻痺瓶を投げつけた。
麻痺瓶は標的に当たった衝撃で割れた。標的の頭には、黄色い麻痺薬が付着した。麻痺の効果なのかは知らないが、少し動きが鈍くなったような気がする。
「スキル! 凶牙弾!」
スキルを発動した私は、標的に近寄り、銃の引き金を引いた。
ライフルとは違う、少し乾いた銃声が鳴り響いた。放たれた弾丸は、標的の体に複数の弾痕を刻みつけた。
さっきまでは、くくり罠から逃れるためにジタバタと暴れていたが、その動きがピタリと止まった。1発で終わったのだ。もう過ぎた話だが、こいつ相手に凶牙弾を使う必要はなかったかもしれない。
カノンは恐る恐る血塗れの竜の死骸に近づいて、それが動かないことを確認した。そして、私の方を向いて、呆然とした様子で「え、終わりですか…?」と訊いてきた。
「ああ。そうみたいだ」
「そ、そうですか…本当にベテランだったんですね…どちらにしろ、これで晴れてAランクです!」
「ああ。カノンもよく頑張ってくれたよ」
「え? そ、そうですか? えへへ」カノンが照れくさそうにそう言った。
その後、標的だった血塗れの竜の牙を取った。狩った証拠が必要ならしい。そして、冒険者ギルドに提出しに行くことにした。
ギルドには2時間半ほどで到着した。着いた頃には、辺りは夜になっていた。
「行ってきましたよぉ!」カノンが自信満々にそう言って、受付嬢に牙を手渡した。私は隣でそれを眺めていた。
受付嬢は、骨董品の鑑定でもしているかのように、牙を丁寧に隅々まで確認した。そして、数分で鑑定は終わった。
「はい。確かにこれは血塗れの竜の牙ですね。Aランクに昇格です。おめでとうございます!」
「やったああ! やりましたね昌彦さん!」受付嬢の言葉を聞いたカノンは、とても嬉しそうな様子でそう言ってきた。
「ああ! おめでとう!」私は親指を立てながらそう言った。
「おめでとうカノンちゃん! ついにAランクか! 時間が経つのは早いなあ」近くにいた冒険者が、カノンに近寄って、祝福の言葉を述べた。
「ありがとうございます!」カノンが両手を振りながらそう言った。
カノンはかなりの人気者なのかもしれない。彼女を祝福しに来た人の数は、10人を軽く超えていた。それに比べて、私を祝福する人は顔見知りの冒険者2人だけだった。
そのとき、背後から聞き覚えのある声で話しかけられた。
「おや? 昌彦じゃないか。そろそろ昇格するんじゃないかと思っていたけど…無事昇格できたようだね。おめでとう」
私に話しかけてきたのはティカだった。
「おお。ありがとう。それで、何でギルドに居るんだ? 今日も休日のはずだが」
「掘り出し物の依頼があるかを見に来てるんだよ。毎日ね」
「そいつは律儀なもんだな」
「まあね。それと、これから一緒に食事でもどうかな? ランク昇格の祝いも兼ねてさ」
「ああ。腹も減ったしそうしよう」
その時、他の冒険者たちと話し終えたカノンが、ご機嫌な様子でこちらに歩いてきた。
「昌彦さん! 改めてありがとうございま…あれ? ティカさんじゃないですか! お二人は知り合いだったんですね! どういう関係なんですか?」
「カノンが思っているような関係じゃないよ。パーティを組んでいるだけさ。それと、今から昌彦と僕で食事をする予定なんだけど、カノンもよかったらどうかな? 奢らないけど」
「え!? いいですね! そうしましょう!」
それから、私とティカとカノンは、冒険者ギルドの近くにある、少し豪華なレストランに向かった。今日くらいは贅沢してもよいだろう。
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