第22話 家路
私とルルシエルの間に気まずい沈黙が訪れた。それを打ち砕くように私は言葉を発した。
「そ、それは一体どういうことなんだ? ルルシエルの親父さんもその竜を見たってことか?」
「ええ、そういうことよ。そのときは冗談だと思ってたんだけどね…父が死んだこととはあまり関係ないとは思うけど、その竜や神隠しについてはちゃんと調べる必要がありそうね…何か分かったことがあったら手紙でも送るわ。今すぐその竜を見つけられるってわけでもなさそうだし、色々ともどかしいとは思うけど、気長に待っていてほしい」
「ああ。別に構わないよ」
まだ分からないことだらけなわけだし、そのときが来るまでは待つしかないだろう。煮え切らない気持ちではあるが、仕方がない。
「そいえば、報酬金はもう渡してくれたのか? 記憶が曖昧なせいで分からないんだが」私は続けてそう言った。
「え、ええ。昨日手渡したわ。前から言ってるけど…あまり多くはないからね」ルルシエルは落ち着かない様子でそう言った。
「分かっているよ。それで、どれくらいなんだ?」
ルルシエルは目を逸らしながら「…5万ゼニーよ」と言った。
私は呆れた様子で「いくらなんでも少な過ぎやしないか? ブラックボアの依頼とそんなに変わらないぞ…」と言った。
「仕方ないでしょ! 予算がなかったんだから! ミックとティカだって5万よ!」
「そうか…まあ俺はそれで構わないんだが、ティカはどう言ってた? あいつ意外とけち臭いからな…」
「最初は不服そうだったけど、なんとか許してくれたわ」
私は部屋のドアに向かって歩きながら「それならいいんだ。じゃあ、もう夜も遅いし自分の部屋に戻るとするよ。話を聞いてくれてありがとう」と言った。
「うん。それと、依頼を受けてくれて改めてありがとう。助かったわ」
「こっちも何かと助けられてるし、お互い様だよ。おやすみ」そう言って、ルルシエルの部屋を後にした。
翌朝、ブルースへ帰ることになった。かなり前から決まっていたことだったらしいが、私はそれを覚えていなかった。
また、帰るとは言っても、今から一緒に帰るのは冒険者3人と一部の人だけだ。ルルシエルやラヴァルは残るらしい。
荷馬車に乗りこもうとしている私に、ラヴァルが「気をつけて帰ってください!」と言った。
「ああ。ありがとう。調査の成功を祈ってるよ」
「おかげさまで成功できそうです! ありがとうございました!」
ラヴァルをはじめとする数人に見送られながら、荷馬車は調査拠点を出発した。
私は、すでに走り出した荷馬車の中で、ティカとミックに「何かやり残したことはないか? こんな所滅多に来られないぞ?」と訊いた。
それを聞いたミックは満足そうに「俺は大丈夫だ。ドレイア育ちのドレイア暮らしだからな。来ようと思えばまた来れる」と言った。
ティカも満足そうに「やり残したことがないと言えば嘘になるけど…まあ、昌彦といればまだまだ色々な場所に行ける気がするから、僕は満足だよ」と言った。
「それで…話は変わるんだがな、昌彦。ブラスソードに入らないか?」突然ミックが真剣な様子でそう言ってきた。
「冗談か? 俺はBランクだぞ? Sランクパーティになんて…」
「いや、本気だ。お前の実力なら全く申し分ない。決して悪いようにはしない」
「ちょ! 昌彦…」ティカが珍しく焦った様子でそう言った。
確かに悪い話ではないなと思った。狩りも今より捗るだろうし。しかし、ティカがいるしな…
私は、10秒ほど考えた後、「悪いが断らせてもらうよ。俺には仲間がいるからな。むしろ、ミックが俺とティカのパーティに入らないか?」と言った。
ミックは少し残念そうに「悪いな。俺にも仲間がいるんだよ。まあ、解散したら入らせてもらおうかな」と言った。
「よかった…また見捨てられるのかと思ったよ」ティカが安堵した様子でそう言った。そして、意味もなく3人で笑った。
調査拠点を出発して1週間が経った頃、荷馬車の一行はドレイアに立ち寄った。行きと同様、ドレイアで食糧を買い足すらしい。
ドレイアに到着して数分後、ミックが「じゃあ俺はここで降りるよ。ブルースまで行く必要はないからな」と言った。
「そうか。確かにそうだな。またいつか会おう」荷馬車から降りようとしているミックに、私はそう言った。
「色々楽しかったよ。また会おうね」ティカがそう言った。
「ありがとう。少し寂しいが、また何か強いモンスターと戦うときは呼んでくれよ! じゃあな!」ミックはそう言って、荷馬車から離れていった。
1ヶ月程度一緒にいただけなのに、別れるとなると寂しい気持ちがこみ上げてくる。いつも平然としているティカも、どこか寂しそうな様子だった。
その後、ブルースに向けて再出発した。そして1週間後、ついにブルースに到着した。思い返してみると長い旅だった。
ティカが大通りの人混みを眺めながら「やっと帰ってきたね。相変わらず、この街は変わらないな」と言った。
確かに、街の風景はどこをとっても1ヶ月前と同じだった。当たり前のことなのかもしれないが。
「この後どうする? まだ昼間だけど。このまま帰るのも盛り上がらないよね?」ティカがそう訊いてきた。
「そうだな…じゃあ飯か酒でもどうだ? 昼間からだらしない気もするが」
「それはいいね。賛成だ」ティカが得意げに笑いながらそう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます