第20話 滴水成氷
(味方の名前や使う武器・魔法とかを知らないとコンビネーションがとりにくいな…)と思った私は、ローズ雪山の麓の森を歩いてる途中で「全員で自己紹介をしないか?」と提案した。全員賛成だった。
「では私から。千葉昌彦と申します。Bランクの冒険者で、銃という遠距離攻撃の武器を使います」私はそう言って、銃を全員に見えるように持ち上げた。ティカ以外の全員が興味深そうな顔で見ていた。
その後、私に続いてティカが自己紹介をした。その次はミックが自己紹介を始めた。
「俺はミック・ジョーンズ。ドレイアを拠点としているSランク冒険者だ。大剣を使っている。よろしくな」
冒険者3人の自己紹介が終わった後は、調査院戦力部隊の自己紹介に移った。
戦力部隊の先頭にいる赤い髪の女性が「私は戦力部隊の隊長をしている、マレル・マッキャロルです。火属性の魔法使いです。戦力部隊に命令がありましたら、隊長の私になんなりと申してください」と言った。
その後も、戦力部隊のメンバーが自己紹介をしていった。全員の自己紹介が終わると、目的地に向けて再出発した。
雪が降り積もった山を2時間ほど登ると、目的地の一つである洞窟に到着した。モンスターが生息しているのは雪山に点在している洞窟の中ならしい。実際、雪山を登っている最中はモンスターを全く見かけなかった。
洞窟の前で戦闘準備をしているとき、マレルが「モンスターと戦う時の動きはどうしますか?」と言った。
それを聞いたミックが、顎に手を当てて「そうだな…まず、俺と昌彦とティカの3人が氷獣を相手にする。戦力部隊は他の弱いモンスターを一掃してくれ。それが終わったら魔法使いは俺たちに加勢してくれ。魔法使い以外は危険だから待機で頼む」と言った。
「了解しました。では、洞窟に入りましょう」マレルがそう言って、一行は洞窟に足を踏み入れた。
その洞窟はかなりの広く、壁や地面などの全てが氷でできていた。年中極寒だからこその景色だろう。狩りではなく観光として来ていたら、年甲斐もなくはしゃいでいたかもしれない。それくらい綺麗な洞窟だった。
洞窟に入って30メートルほどで、大きめなモンスター3頭と鉢合わせた。ブラックベアを白くしたような見た目のモンスターだった。
マレルが魔法の杖を構えながら「こいつはホワイトベアですね。私たちに任せてください」と言った。私とティカとミックは、ホワイトベアを戦力部隊に任せて、洞窟の奥へと歩みを進めた。
5分ほど洞窟を進んだ所で、ミックが小声で「おい。あれが氷獣だ」と言った。10メートルくらい先に、5頭の小さいモンスターの影が見える。
ミックがティカに「魔法を頼む」と言った。
それを聞いたティカは、魔法の杖をモンスターがいる方向に向けて「ディケイ・スピリット」と唱えた。
ティカの魔法が氷獣に当たった。すると、氷獣が私たちの存在に気づいて、こちらに近づいてきた。氷獣の姿形もはっきりと見えてきた。
氷獣は、体色が青と白のハイエナのような見た目をしていた。体長はエイリエナのモンスターの中ではかなり小さい方だ。見た目だけなら、断然さっきのホワイトベアの方が危なそうに見える。
では氷獣のどこが危険なのかというと、群れで戦う習性と、鋭い氷の牙だ。氷獣に咬まれた部位は1分もすれば凍りついて動かなくなるらしい。そこに他の氷獣もいるとなれば、危険なのにも納得がいく。この話は、先日ミックから教わった。
氷獣は私たちのすぐそばまでやってくると、「ガルルル…」と鳴いて威嚇してきた。
ミックが赤い大剣を両手でしっかり握って、「じゃあ、援護は頼んだぜ!」と言った。
「オラッ!」そんな声を出しながら、ミックが氷獣目掛けて大剣を振り下ろした。
それは一見力任せな動きのように見えたが、振り下ろされた大剣はしっかりと氷獣の首元に当たっていた。氷獣はひとたまりもない様子でその場に倒れた。流石Sランク冒険者といった腕前だ。しかし、他の氷獣に囲まれている。
「ヘル・フィールド」その状況を予想していたのか、ティカがすかさず魔法を唱えた。氷獣たちからは、さっきまでの活気は感じられなくなった。
一方、私は何もできずにいた。密集して戦っているため、弾がミックやティカに当たる可能性があり、安易に引き金を引けないからだ。さらに、氷獣は小柄かつ素早いため狙いにくい。かなり苦手なタイプの相手だ。
結局、一度も引き金を引かずに、ミックの大剣とティカの魔法だけで戦闘は終わろうとしていた。そのとき、最後の1頭が洞窟の入り口側へ逃げ出した。戦力部隊がホワイトベアと戦っている方だ。ついに私の出番が来た。すかさずスコープを覗いて、氷獣を狙った。
「パァン!」銃声が洞窟内にこだました。氷獣は、走っていた勢いで数メートル転がった後に倒れた。
ティカが落ち着いた声で「これで終わりかい? 前評判の割には楽だったね」と言った。
「近接は結構難しいんだけどな。咬まれたらまずいし…」ミックが疲れた様子でそう答えた。
ミックは続けて「それにしても昌彦。全然戦ってなかったじゃないか」と言った。
全くもってミックの言う通りなのだが、「なんかやりづらいんだよ。ミックやティカに当ててしまったら人殺しになってしまうかもしれないし。まあ次からは頑張るよ」と言い訳をした。
「そうか…まあ、慣れたらでいいよ。もうこの洞窟には氷獣はいないみたいだし、入り口の方に戻ろう」
洞窟の入り口に戻った。マレルたち戦力部隊も、無事ホワイトベアを倒せたみたいだった。
その後、日が暮れるまでに6つの洞窟に入って、沢山の氷獣を狩った。最初の方はあまり活躍できていなかったが、途中からはコツを掴んで、氷獣だけを狙うことができていた。
私たちは目的を達成したので、雪山を下りて調査拠点に戻ることにした。幸いなことに、誰一人欠けることはなかった。
下山している道中で、マレルが「それにしても、私が言うのもあれですが…かなりあっさりと終わりましたね」と言った。
「昌彦の銃ってやつも見れたし、いい日だったぜ」ミックが興奮した様子でそう言った。
「余裕だったね」
誰一人欠けることなく目的を達成できたことに興奮を抑えられないのか、みんな好き勝手に何かを言っていた。
「ティカもミックも結構しんどそうにしてたじゃないか」先頭を歩いていた私は、そう言いながら後ろを振り返った。
信じられないことに、そこには人っ子一人見当たらなかった。ティカやミック、マレルも、誰一人いなかった。さっきまでの喧騒も不気味なまでの静寂に変わっていた。そのなんとも言えない気味の悪さには鳥肌が立った。
私は今の状況が理解できず、虚像のような夕焼けをただ呆然と眺めていた。
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