第17話 円卓会議

 ミックもまた冒険者枠ということで、よりにもよって私の隣に座らされた。かなり気まずい。もちろん、ミックの方も気まずそうだが。


「えっと、それでは会議を始めます! 進行は私、調査院代表のルルシエル・ローズが担当します。それではラヴァル、調査の説明をよろしく」


「はい。今回の調査隊の隊長を任されましたラヴァル・レエンと申します! それでは、調査の説明をしていきたいと思います。まず、今回の調査地域となるのは、ブルース遥か北西に位置するローズ雪山です。標高約1000メートルのこの山には、多数の鉱石の存在が確認されており、ここの調査を成功させると調査院の業績が上がるのは間違いなしです! 数年前にも調査に赴きましたが、その時は残念ながら失敗しました…失敗した原因は、こちらの戦力不足と、雪山への理解が浅かったことです。ここまでで質問がある方は挙手をお願いします」


 ティカが勢いよく手を挙げて、「はい。質問」と言った。


「質問どうぞ!」とラヴァルが言った。


「そこにはどんなモンスターがいるんだい? また、ブルースやその他の街からの距離を教えて欲しい。あと寒さとかも」ティカがやけに真面目な質問をした。ミックのことしか頭にない自分が恥ずかしく感じた。


「分かりました。まず、モンスターについては、氷獣が複数体確認されています。大規模な巣があるのだと思われます。距離については、ブルースから2週間、ドレイアから1週間かかるほどの距離です。かなり人里から離れており、それも未開の地であった理由でしょう。寒さもかなり酷いです。前の調査隊が全滅した理由の一つも寒さですから…寒さに耐性がある装備で行くのを強く勧めます。調査院からは支給できませんが…」


「そうか…確かに厄介だね。続けておくれ」


「はい。他に質問したい方はいませんか? では、説明を続けます。調査の主な流れは、先に冒険者さんたち率いる戦力部隊が、雪山にいるモンスターをある程度の数まで減らします。その後、安全が確認出来次第、調査隊が向かいます。山の頂上にフラッグを立てたら調査は完全に成功となります。本格的な地質調査や測量は、後日続けて行う予定です。以上で説明は終わります。質問がある方は挙手をお願いします」


「質問がある」ミックがそう言って、その筋肉質な腕を挙げた。


「はい。質問どうぞ!」


 ミックはとても気まずそうに「戦力部隊の人数や強さを教えてくれ。俺と…昌彦とティカ以外のな…」と言った。


「はい。戦力部隊の編成は、冒険者3人と調査院所属のハンターが10人です。調査院所属のハンターの強さについては、冒険者に例えればCランクからBランクあたりですね。正直に言うと、調査院所属のハンターたちは、氷獣を相手取るには流石に心許ないですね…他の弱いモンスターを狩るのは十分できると思います」


 私は、ラヴァルが質問に返答しているところに割って入って、「ちょっと待ってくれ。氷獣はそんなに手強い相手なのか? それと、俺も一応Bランクなんだが大丈夫なのか?」と言った。


「昌彦さんはかなり特殊なBランクですから大丈夫ですよ。ギルドには昌彦さんをもっと高いランクからのスタートにして欲しいと頼んだのですが、Bランクからが限界だったんです」ラヴァルがそう言った。


 隣にいるミックが、ラヴァルに続いて「お前はBランクなんかじゃない。自信を持っていいぞ…」と言ってきた。


「そうか。ならいいんだ」私はそう言って、この話を終わらせた。


 その後も1時間ほど会議は続いた。しかし、議題のほとんどは冒険者、少なくとも私には全く関係のない予算やら業績のことだったので、頭の中でくだらない妄想でもしてやり過ごしていた。気がついた頃には、会議は終盤に差し掛かっていた。


「会議お疲れ様でした。明日の午前7時、調査院本部の前に集合でお願いします。全員集まり次第、ローズ雪山に向かって出発します。以上で会議は終わります。お集まりいただきありがとうございました」ルルシエルがそう言って、会議を終わらせた。柄にもなく、落ち着いた様子だった。


 会議の後、私とティカは、会議室でラヴァルと話していた。


「調査隊の隊長だなんてすごいじゃないか」私は、ラヴァルにそう言った。


「前のあの山での調査がうまくいったので、ルルシエルさんに推薦されたんですよ! 昌彦さんのおかげでもあります。改めてありがとうございました!」


「そんな特別なことはやってないよ」


「そういえば、ルルシエル殿はもう帰ったのかな? 少し話してみたかったんだけど。残念」ティカがそう言った。言われてみれば、確かにいない。


「会議の最後の方もテンション低かったし、疲れたんだろう」私は、勝手に納得したような様子でそう言った。


「いや、ルルシエルさんのテンションが低かった理由は多分…」


「「多分?」」私とティカが同時にそう訊いた。


「誰にも言わないでくださいよ? 実は、ルルシエルさんの父アンガス・ローズさんは、昔のローズ雪山の調査で亡くなったんです…ルルシエルさんは、そのことを思い出してしまってテンションが低かったんだと思います」ラヴァルは声を抑えてそう言った。


「だからローズ雪山という名前なのか…それは辛いね」ティカが申し訳なさそうにそう言った。


 その後、ラヴァルと数分会話を交わした。しかし、あまり話し続けてもラヴァルや調査院に迷惑だと思ったので、私とティカは帰ることにした。


「では明日からよろしくお願いします!」帰り際にラヴァルがそう言ってきた。


「こちらこそ。明日からはよろしくな」私はラヴァルにそう言った。


 会議室を出て1階に行くと、そこにはミックがいた。私とティカが来るのを待っていたのだろう。流石にそのまま何も言わずに帰るとは思っていなかったので、予想通りの展開と言える。


 ミックの目の前を通り過ぎようとした私たちに、ミックが「よう。お疲れ様。今晩、一緒に酒でもどうだ?」と言った。


「申し訳ないが、明日は朝が早いから夜は勘弁してほしい。今からならいいが」我ながら無愛想な様子でそう答えた。


「た、確かにそうだな。…そうしよう」


「僕は行かないよ。武具屋に用があるからね」ティカはそう言うと、そそくさとどこかに行ってしまった。


 私とミックの間に、気まずい空間が再形成された。


 とは言ったものの、私の中のミックへの印象は、前よりも格段によくなっていた。なぜかというと、今回のローズ雪山の調査の依頼を受けたからだ。知っての通り、この依頼は危険度の割に報酬金が少なすぎる。金に執着している冒険者や、それ以外の普通の冒険者も、ほとんどがこの依頼を受けようとしないだろう。そこを彼は、堂々と引き受けたのだ。


 報酬金が必要ないかと言われればもちろんそうではないのだが、個人的には、ミックのそのマインドには好感を持っていた。

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