第15話 ドレイアグッドバイ

 目が覚めた。知っている天井だ。私は、ドレイアの宿のベッドで横になっていた。時計を見ると、午前9時を指していた。


 目を開けて呆然としていると、近くの椅子に座って本を読んでいたティカが、私が起きたことに気づいて、「やっと目が覚めたかい? まさか1日中寝続けるなんて」と言ってきた。


「そういえば! あの後どうなったんだ?」こうなるまでに、何があったのかを大体思い出してきたので、そう訊いた。


「まあ、端的に話すよ。昌彦が倒れた50分後くらいにブラスソードは到着した。目の前の信じられない光景に、一同は呆然としていたけど、昌彦が倒したということを話したら、なんとか信じてくれたよ。そして、昌彦をここまで運ぶのを手伝ってもらったんだ」


「それで、報酬はどうなったんだ? 火炎竜を倒した分ももらえるのか?」


「いや、その分はブラスソードに渡されたよ。悔しいけど、依頼を受けてないのに標的を倒したのは、ある意味密猟みたいなものだからね。それに、こんな大規模な依頼で起こった、こんなありえない出来事は、ギルドからしても公にはできないだろうさ。ましてや、Bランクが火炎竜を倒したとなると、色々とギルドの信用も下がりかねないからね。これは、ギルド上層部とブラスソードと僕たちしか知らない機密事項だ」


「そうか…まあいいか。生きて帰れただけありがたい」


「今回の依頼の分の100万ゼニーはしっかりもらってきたよ。半分で分けといたからね」そう言って、分厚い紙袋に入った報酬金を渡してきた。


「それにしても信じられないな。まさか倒してしまうなんて」私は、自分でそう言って自分で笑った。


「僕も信じられないけど、前々から昌彦はBランクとは思えない強さだとは思っていたよ。まさかここまでとは思っていなかったけどね。まあ一つ確かなのは、昌彦はこんなとこにいるような人物じゃないということだね。ギルドは今すぐ昌彦を昇級させるべきだ」


「それはありがたい。それで、この後はもうブルースに帰るのか?」


「いや、その前に少し寄らなければいけない場所があるんだ。昔からお世話になっている腕のいい武具屋に、僕の魔法の杖と、ついでに昌彦の武器もメンテナンスに出してあるからね」


「そうか。じゃあ今から行くか」そう言って、ベッドから起き上がった。


「立てるのかい?」ティカが心配そうに訊いてきた。


「大丈夫みたいだ。流石に腹は減っているが」


 その後、ティカが買ってきてくれていた飯を食べて、ブルースへ帰るための荷物をまとめた。そして、預けていた荷馬車を返してもらう前に、例の武具屋に行くことにした。


 その武具屋に行く道中、私はずっとあることについて考えていた。


(なぜ昨日は倒れてしまったのだろう?)


 この疑問が頭から消えない。普通に考えれば、火炎竜の攻撃が効いてきたからというのが答えになるが、それは違うと思う。


 攻撃をくらった後すぐに治癒スキルを使ったし、何よりも、今こうして何不自由なく歩けているという事実を見れば、火炎竜の攻撃による外傷で倒れたというわけではないはずだ。


 それに、他にもしっかりとした心当たりがある。


 それは、あの凶牙弾というスキルだ。あのスキルを発動してからというもの、引き金を引くたびに、体から生気が抜けていくような感触を感じた。そして、3発目を撃った頃には、立てっているのもやっとだったというわけだ。


 凶牙弾は、他のスキルとは違って使用回数の制限はないようだった。もしかすると、使用者の生命力を削るということが、使用する際のペナルティのようなものになっているのかもしれない。


 もちろん、試してみないことにはまだ何とも言えないが、どちらにしろ、あまり不用意には使い過ぎない方がよいだろう。


 1人で思慮を巡らしているうちに、武具屋に到着した。


 店のドアを開けて中に入った。そこでは、普通の部屋くらいの大きさのスペースに、鎧や剣、槍や杖まで、色々な物が飾られていた。その珍しい光景には思わず見惚れてしまった。


「おう! いらっしゃい! ティカちゃんとそのお仲間さん」受付で剣の手入れをしている、ごついスキンヘッドのおっさんがそう言った。


「初めまして。千葉昌彦と申します」


「俺は店長のデイヴだ! よろしくな!」


「メンテナンスに出してたやつを取りに来たよ」ティカがそう言って、デイヴにお金を渡した。


「またドレイアに来たときはうちに顔出してくれよ」デイヴはそう言いながら、銃と魔法の杖を渡してきた。


「ブルースに移転してくれたら毎週行ってあげるよ」ティカが少し笑いながらそう言った。デイヴも笑っていた。


「それで、昌彦のこの武器について何か分かったことはあったかい? 昌彦は記憶喪失で、この銃とやらの出自についても全然分からないんだ」ティカがデイヴにそう訊いた。このことに触れられるたびに、嘘をついたことへの罪悪感を感じる。


「いや。長年この仕事をやってる俺でも、そいつは見たことも聞いたこともない。手入れをするために少し分解はしたが、その仕組みもいまいちさっぱりだ。少なくともこの国の武器ではないことは確かだろう」デイヴは困ったような様子でそう言った。


 デイヴは続けて「昌彦さんよ。少しこれについて教えてくれないか?」と言った。


「まずですね…」銃の仕組みを、大雑把に一通り話した。


「なるほど…技術としては難しいが、理に適っているな…」デイヴが顎に手を当てて、そう言った。


 その姿は、さっきまでの明るいおっさんとは打って変わって、発明家か科学者のように見えた。


「まあとりあえずありがとな! また来てくれ! 銃について何か分かったら、手紙でも書くよ」デイヴは普段通りの明るい様子でそう言った。


「ああ。ありがとう」ティカがそう言って店から出ていった。私もデイヴに感謝をしてから、ティカの後に続いた。


 その後、荷馬車を回収した私とティカは、ブルースへの帰路についた。

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