第14話 リライト
ティカが調子を取り戻してくれたので、一緒に朝食を食べることにした。メニューはパンと果物と卵焼き。朝食らしい朝食だ。
「さっきはありがとう」朝食を食べているとき、ティカがそう言ってきた。
「別に構わないよ。俺だって少しは怖いし」
「絶対に生きて帰ってこよう」
「ああ。当たり前だろ?」私がそう言ったら、ティカは笑顔を浮かべていた。
もちろん今日死ぬつもりなんて毛頭ないが、心の奥底では、これが最後の食事になってしまうんじゃないかとも思ってしまっている自分がいた。
朝食を食べ終えて、準備も済ませた私とティカは、集合場所であるドレイア第二鉱山の麓の広場を目指して出発した。街を明るく彩った朝焼けの光は、まるで私たちのこれからを応援してくれているかのようだった。
集合場所には時間通りに着いた。そこには、臨時拠点としてのテントが張られていた。
「おはようございます」テントの中の椅子に座っているマキノーさんにそう言った。
「おはようございます昌彦さん。それとティカさんも。改めて今日はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
「これが今日行ってもらう洞窟の場所の地図です」マキノーさんはそう言って地図を渡してきた。
「ありがとうございます」私はそう言って、それを受け取った。
マキノーさんと少し会話をしていると、ブラスソードの4人も到着した。
「おはよう。今日はよろしくな」ブラスソードのリーダーのミックがそう言った。
「では全員揃ったことですし、作戦を開始します。昌彦さんとティカさん。昨日の説明通りによろしくお願いします」
「了解です」私はそう返事して、今から登る山を見上げた。
「では行ってくるよ」ティカがやっと口を開いてそう言った。
「どこの洞窟から行く?」マキノーさんにもらった地図を眺めている私に、ティカがそう尋ねてきた。
「そうだな…1番近いとこから行こうか」
この山は、現役で鉱山として使われているのもあってか、道が整っていて登りやすかった。そのため、登り始めて1時間もしないうちに一か所目の洞窟に着いた。
モンスターが巣にしている可能性があるというだけあって、かなり大きい洞窟だった。
洞窟の最奥部へ行くための道はとても暗く、周囲を照らす魔法を使える魔法使いがいなかったとしたら、少し面倒なことになっていただろう。
入り口から100メートルほど進むと、最奥部と思われる開けた場所に出た。最奥部の天井には、いくつもの小さな穴が空いていて、そこから外の光が差し込んできていた。かなり明るい。
そこには紅色のドラゴン、火炎竜が眠っていた。見事、1発目にして当たりを引いたということだ。
「吠えさせるには起こさなきゃいけないよな?」隣にいるティカにそう訊いた。
「そうみたいだね。何か魔法を当てて起こそうか?」
「そうだな…じゃあ、弱体化魔法で頼む。それと、覚悟はできてるか?」
「もちろん。万全だよ。ディケイ・スピリット!」ティカは得意げに親指を立てて、魔法を唱えた。
ティカの杖から放たれた黒いもやは、火炎竜の体に溶け込んだ。
それをくらった火炎竜は、おもむろに起き上がった。他の普通のモンスターとは違って、こいつからは、怯んでいる気配なんて微塵も感じられなかった。
寝起きの火炎竜は、こちらをじろりと見下ろした。今の自分が置かれている状況を理解したのか、耳をつんざくような鳴き声で吠えた。
けたたましい咆哮の中、ティカに聞こえるように大きな声で「これであとは時間を稼ぐだけだよな!」と言った。
「そうだね! 攻撃を避けながらも遠距離で攻撃しよう」ティカも大きな声でそう言ってきた。
「スキル! 毒弾!」じわじわと弱らせるために、毒弾を使うことにした。
「パァン!」
確かに首元に命中させたが、まるで何もくらっていないかのように平然としている。流石にしぶとい。
その後も、火球などの多様な攻撃を避けつつ、何発か毒弾を当てた。ティカも色々な魔法を唱えている。しかし、あまり効いているようには見えない。
「昌彦! 危ない!」銃の弾が切れたのでリロードをしていたその時、ティカのそう叫んでいる声が聞こえた。
その瞬間、全身に強い衝撃を感じた。
気づいたら、私は数メートル後方に吹き飛んでいて、地面に寝そべっていた。その事実に気づいた数秒後、全身がひどく痛み始めた。
目を動かしてみると、ティカが火炎竜と懸命に戦っているのが見えた。
それを見て、私も早く戦いに戻らなければと思い、あまり動かない体を無理矢理動かし、治癒のスキルを自分に使った。
「さあ…戦線復帰だ…」私は、掠れた声でそう呟いた。
まだ身体は痛む。しかし、ティカ1人でこいつを相手にするのは無理がある。だから、私も戦わなければならないのだ。休んでいる暇なんてない。
立ち上がって銃をリロードし直していたその時、ふと頭に浮かんできたのは、ブラスソードが到着するまでには、少なくともあと50分はかかるという過酷な現実だった。
(これは、このままだと、本当にここで終わってしまうんじゃないか?)
悔しいけど、そう思う他なかった。
(しかし、諦めるにはまだ早い気がする。この絶望的なシナリオを書き変えれるような、画期的な何かがあるはずだ。それは一体何なんだ?)
私は、そう自問自答して、脳をフルで回転させた。
そして、あることを思いついた。いや、思い出したと言った方が正しいかもしれない。
それは、昨日獲得した謎のスキル、凶牙弾の存在だった。凶牙弾は、他のスキルとは何から何まで違っていた。
このスキルなら、こいつ相手にもある程度はダメージを与えられるかもしれない。そういう気がしたのだ。私は、この一縷の望みにかけてみることにした。
「スキル! 凶牙弾!」
そして、コッキングをして火炎竜の頭を狙った。
「パァン!」
弾丸は見事に命中した。火炎竜は血を流し、体をのけぞらせた。それは、これまでにない手応えだった。
「パァン!」
2発目の弾丸は、火炎竜の首筋を貫いた。火炎竜の動きはさっきに比べて、あからさまに遅くなっていた。
それと、気のせいかもしれないが、凶牙弾を使い始めてからというもの、銃の引き金を引くたびに体が重くなっていく。まるで生命力を吸われているかのように。
「パァン!」3発目の引き金を引いた。
その弾丸は、火炎竜の眉間に突き刺さった。
信じられないことに、火炎竜は、重たい音を立ててその場に倒れた。
遠くで戦っていたティカは、目の前で起こった衝撃的な出来事に呆然としていた。しかし、数秒後には、こちらに嬉しそうな顔をして歩み寄って来ていた。
私もそれに呼応して、銃を掲げてみせた。
その瞬間、私は膝から崩れ落ちて地面に突っ伏した。
意識が遠ざかっていく。ティカの足音と心配そうな声が、微かに聞こえてきた。
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