第12話 ロードムービー

 それから約1ヶ月間、毎日のようにティカと一緒に狩りへ行き、依頼を達成した。


 ティカの闇魔法にもすっかり慣れ、戦闘スタイルも大体噛み合ってきた。毎日依頼をこなしているため、お金も前より安定してきて、毎日が充実している。


 今日はそんな日々の中での貴重な休日で、存分に疲れを癒している。


「コンコン!」


 朝の10時頃。部屋のドアをノックする音が聞こてきた。私の部屋に来客なんて珍しい。休日なのに面倒だなと思いながらも、仕方なくドアを開けた。


 その来客は少し意外な人物だった。


「何の用だ?」私は来客にしかめっ面でそう言った。


「休日は会いたくないかい?」


 その来客はティカだった。


「別にそういうわけでもないんだが…というか、なぜ俺の家を知ってるんだ?」


「少し前に教えてくれたじゃないか」


「そうだっけ?」


「うん」


「ところで何の用なんだ? わざわざ家まで来て」


「まず、これを見ておくれ」ティカはそう言うと、机に朝刊の一面を広げた。


 その記事の内容は、大まかに言うとこうだった。


 ロウサーニャ王国北方の街ドレイアの鉱山で、炭鉱夫が火炎竜に襲われる事件が発生。数名が死亡。火炎竜の狩猟に向けて、冒険者ギルドが捜査を進めている。


「これが一体どうしたっていうんだ? ただの悲しい事故じゃないか」記事を読み終えた私は、ティカがこれを私に見せて何を示したいのかがさっぱり分からず、そう質問した。


「次はこれを見ておくれよ」ティカはそう言って、冒険者ギルドの依頼の紙を見せてきた。


 それの内容はこうだった。


【緊急依頼・ドレイア鉱山の火炎竜の巣の特定】


 報酬金・2000000ゼニー 


 危険度・Bランク以上


 注意・とても危険なモンスターなため、死ぬ覚悟がある人のみ受けてください。保証はありません。


 この依頼を見たとき、ティカが提案したいことが大体分かってきた。


「この依頼を受けるって言いたいのか?」


「いや。受けるんじゃないよ。もう受けたんだ」ティカはさらっとそう言った。


「おい! 何勝手に受けてくれてるんだ! 見た感じとても危なそうじゃないか! 俺はまだ死にたくないんだよ!」


「もう受けてしまったんだから行くしかないよ。それはさておき、この報酬金の額を見ておくれ。1人100万だよ? 家賃3年分だ。それに、僕たちなら難なく生きて帰れるさ。もし昌彦が行かないなら僕1人でも行くからね」


「報酬金は確かにすごいが…まあ仕方ないか。いつ出発だ?」私はもう諦めて行くことにした。ティカを1人で行かせるわけにはいかない。


「ありがたいよ。明日の朝出発だ。ドレイアはかなり遠いから、荷馬車を借りておくよ。それじゃあ明日の朝にここまで迎えに来るからね」ティカはそう言い残して、そそくさと部屋から出ていった。


 明日からのこともあるしちゃんと休んでおこうと思い、ティカが帰った後もそのまま休日を満喫した。


 翌朝、遠出をするための準備を済ませた私は、ティカが部屋のドアをノックするのを待った。


「コンコン!」ノックが聞こえた。


「さあ、出発しようじゃないか」ドアを開けると、ティカが柄にもなく明るい様子でそう言ってきた。


「ああ。行こう」私もなぜだか、少し楽しい気分になってきた。


 それから、宿の前に止めているティカが借りてきた荷馬車の荷台に乗った。馬の手綱は交代で握ることにした。


 街を出て、平原の道をただ北へ進んでいく。この、どこまでも続きそうな広大な平原の景色は、今になっても新鮮に感じる。透き通った美味しい空気が鼻から抜けていく。自然はよいものだ。


「ところで、ドレイアにはいつ到着するんだ?」馬に跨っているティカにそう尋ねた。


「大体1週間くらいかな?」


「かなり遠いんだな。というか、三大都市以外にも街ってあるんだな」


「三大都市はあくまでも王国の主要都市ってだけだからね」


「そいえば、今回の依頼には火炎竜って名前が出てきてたけどどんなモンスターなんだ?」


「火を吹くドラゴンだよ。危険度はSランクの中でも上の方で、とても危険だ。ちなみに人里に来るのはかなり珍しいよ」


「ティカは博識なんだな。そんなことまで知ってるなんて」


「神官になるには学問の知識も必要だったからね。伊達に10年やってないってことさ」


「10年も受け続けたなら今は何歳なんだ?」


 この質問だけは返答がなかった。


 似たような景色の道を1週間ほど進み続けると、目的地であるドレイアの街に到着した。


 ドレイアは、鉱山に囲われた盆地にある街だった。炭鉱の街というだけあって、街には武具屋や加工屋などが沢山あり、その屋根の煙突から出る煙は日本の温泉街を思い出させた。


 そして、この街はかなり北に位置しているからか、ブルースに比べてかなり肌寒い。雪が降っているときもある。


 街に着いてからまず、荷馬車を業者に預けた。それから宿を見つけ、大きい荷物を部屋に置いた。


「依頼の詳細を聞かないといけないからギルドに行こう」宿の部屋で座っている私に、ティカがそう言ってきた。


「ああ。もちろん」


 宿から冒険者ギルドは10分くらいで着いた。


 ギルドの見た目はブルースと似たような感じで、内装もほぼ同じだった。


 私もティカも朝から何も食べていなかったので、受付で話を聞くより先に食堂で飯を食べることにした。

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