第10話 最初の仲間が腫れ物なんだが…
1週間ほど休暇をとることで心身共に回復した私は、久しぶりに依頼を受けようと思い、冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルドは相も変わらず賑わっていた。私は朝食がまだだったので、ギルドの中の食堂で食事を摂ることにした。
焼き鳥と野菜炒めを注文して、空いている席に座った。
私が椅子に座って1分が経った頃、黒いローブに黒いとんがり帽子という何やら怪しげな服装の女の子が、食事をしている私の前にいきなり座って「ねぇ、僕とパーティを組んでくれないかな?」と言ってきた。
「本当に突然だな…そもそも、俺なんかと組んでどうするつもりなんだ?」
「噂で聞いたんだ。あなたがあの昌彦って人だよね?」
「噂に関してもさっぱり分からないし、『あの昌彦』なんて言われるほどのことはしてないはずだが…」
「知らなかったの? あの血塗れの竜をあっさりと、それもよく分からない武器で倒したおっさん冒険者がいるって噂になってるよ」
「最近ここには来てなかったからな…というか、血塗れの竜ってのはそんなにやばいのか? みんな恐れているような口ぶりなんだが」
「昌彦は変わった人だね…血塗れの竜が強いのなんて冒険者の間じゃ常識じゃないか。Aランクの冒険者でもかなり苦戦するって聞く」
「いまいちピンとこない説明だな…まあ、とりあえず噂になってるってのは理解したよ。でも、それが俺とパーティを組む理由になるのか?」
「昌彦くらいの強さの冒険者はただでさえ少ないのに、ほとんどがすでにパーティを組んでしまってるし、そもそも僕とは組んでくれない。だから僕は何年もずっと1人で冒険者をやってた。そこに昌彦が彗星の如く現れた。ここで声をかけないわけにはいかないよね」
「なぜ他の奴は組んでくれないんだ?」
「神官試験に10回も落ちた末に、冒険者をやっている僕と組みたい人なんていない」彼女は顔色一つ変えずに、とんでもないことを言ってのけた。
「なんだかツッコミにくい理由だな…というか何でそんなに試験に落ちたんだ?」普通に気になったので訊いてみた。
「魔法の能力も神官としての知識も全てが高かったけど、たった一つ、神への信仰心だけが足りなかった。まあ、実際信仰になんて興味なかったし、神官にはお金のためになろうとしてただけだから、落とされるのも仕方がなかったと思うよ。いつだって自分に正直でいるのは大事なことだ」
(クズじゃねえかこいつ…)
「昌彦も僕を軽蔑するかい? 仕方ないか。こんな僕だから…」なぜか被害者面でそう言ってきた。
「まあいいだろう…君に期待されてるほど俺は強いかは分からないが、一緒にパーティを組もうじゃないか」断れるような感じじゃなかったし、一緒に依頼を受けるくらいならまあいいかというこどで、パーティの結成を承諾した。
「本当かい!? それは嬉しいよ! 僕の名前はティカ・ヴェルベット。一応Aランクの魔法使いだよ」
「Bランクの千葉昌彦だ。よろしく」
「噂で聞いた強さの割に、ランクは低いんだね。もしかするとランクってあんまり当てにならないのかも…まあ、とにかくよろしくね」
「ああ。それはさておき、ティカも何か食べたらどうだ?」
「それはいいね。そうするよ」そう言って、ティカは野菜のシチューを注文した。
「ところで、昌彦って変わった名前だけど、どこの出身なんだい? ちなみに僕の出身はレイテーゼ聖王国だよ」ティカはシチューを食べつつ、そう訊いてきた。
「出身か…」
遥か遠い国の出身で、それがどこかは分からないとだけ言うのは流石におかしい気がしたので、山での4年間や調査院でのこと、そしてつい先日冒険者になったことなど、これまでのことを大雑把に全て話した。
私の話を聞いたティカは「なるほど…昌彦がBランクでも強いのにも納得だよ。昌彦は色々と特別な人なんだね。いつか記憶も戻るといいね」と言った。ティカはあまり驚いた様子でもなかった。無駄に純粋で助かる。
朝食を済ませた私とティカは、早速2人で依頼を受けることにした。
「昌彦はどんなのを受けたい?」隣で依頼ボードを眺めているティカがそう訊いてきた。
「俺はあまりモンスターについて詳しくないからな…よさげなので頼むよ」
「じゃあこれにしようか。危険度B、ブラックベア2頭の狩猟。僕たちのお互いの戦い方を知るためには、丁度良いモンスターだと思うよ」
(ブラックベアということは黒い熊なのだろうか。ブラックボアもいるしややこしいな…)
そんなくだらないことを考えている間に、ティカはそそくさと依頼の紙を剥ぎ取って受付に向かっていた。私も早歩きで着いていった。
「ところで、依頼場所のクルヌ村ってのはどこなんだ?」ギルドから出て、目的地のクルヌ村とやらに向かっている道中、ティカにそう訊いた。
「ブルースの街から歩いて2時間くらいで着く、どこにでもあるような何てことない普通の村だよ。つい先日、村近くの森を歩いていた村人がブラックベアに惨殺されたらしい」
「それは恐ろしいな…」
「何で? それくらいよくあることじゃないか」
「そうなのか…?」そんなことがよくあるなんて、堪ったものではないなと思った。
適当な会話を交えつつ、広い平原を歩いて約2時間。クルヌ村に着いた。家が20棟程並んでいて畑もある、確かに何てことない普通の村だった。村の周りは柵で囲われている。
「どの森でブラックベアが現れたのかとか、詳しくは知らないから村長に訊いてみようよ」村の門の前でティカがそう言った。
「ああ。そうだな」私はそれに同意した。
私たちはまず、村長の家を訪ねることにした。
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