第7話 大森林にて

 大森林を歩いて、標的であるブラックボアを探しているそのとき、私はあることに気づいてしまった。


「ブラックボアって誰だ?」柄にもなく、思わず独り言を言ってしまった。


 ブラックボアを狩れと言われても、そいつの見た目が分からないとどうしようもないのだが…そういえば、牙を持って帰ってきてくださいと受付嬢は言っていた。その発言から考えるに、ブラックボアは牙のあるモンスターなのだろう。


 少し焦ってそんなことを考えていたそのとき、森の木々の中から見慣れたモンスターが現れた。それを見た瞬間、ブラックボアというモンスターが何者なのかも理解した。


 私の目の前に現れたのは、約4年間狩り続けたあの大きな猪だった。


「確かに黒くて牙がある…こいつそんな変わった名前だったのか…」拍子抜けした私の独り言が聞こえたのか、ブラックボアはこちらに気づいたようだ。


 ブラックボアと私の目が合った時には、銃に弾をこめてコッキングをして、撃つ準備はできていた。何年間も毎日こいつを狩ってきたため、嫌でも全ての行動や習性を理解している。


 標的が突進してくる前に正確に急所を狙い、そして引き金を引いた。


「パァン!」


 静かな大森林に銃声が響いた。急所に弾をくらった標的は1発で倒れた。私はなんてことない様子で死骸に歩み寄り、牙を削ぎ落とした。


 その後、さらに大森林の奥地へと歩みを進めた。目に入ったブラックボアを片っ端から狩っていたら、夕方頃にはブラックボア10体を狩猟し、牙を入手していた。


 そろそろ日も暮れそうだし帰ろうかと思ったそのとき、遠くの木に止まっていた小鳥たちが鳴きながら羽音を立てて一斉に飛び立った。それとほぼ同時に、高い所から重い物を落としたみたいな感じの、大きくて重たい音が聴こえた。


 そこで何が起こったのかが気になってしまい、いても立ってもいられなくなった私は、音の鳴る方へ進んで行った。


 草木を掻き分けて200メートルほど進むと、現場が見えてきた。


 そこでは、冒険者3人がモンスターと戦っていた。このモンスターは確か、ラヴァルが血塗れの竜と呼んでいたモンスターだ。周りの木々には目もくれず、暴れ回っている。


「くそ! こいつどうなってんだよ!」冒険者3人のうち1人の男が、剣で攻撃を必死に受け流しながらそう叫んでいる。


「ヒール! ヒール!」少し離れた所の木の下で、冒険者の女の子が杖を持って、横たわった怪我人にそう唱えている。街でも見聞きしたが、あれが魔法というやつか。怪我人は木の影のせいでよく見えない。


 このままじゃ冒険者たちの命が危ないと思ったので、私も加勢することにした。


「スキル! 爆散弾!」時間短縮のために、スキル名を声に出すことで、スキルを発動させた。


 血塗れの竜は目の前の敵に夢中で、まだ私の存在に気づいていない。


 私は素早くコッキングして、冒険者の男に当たらないように、慎重かつ俊敏に標的の眉間を狙った。


「パァン!」


 命中した。弾は眉間にめり込んで、すぐに中で爆発した。標的は眉間から血飛沫を吹きながら、大きな音を立ててその場に倒れた。


 冒険者の男は目の前で起こったことに、呆気に取られていた。


「まだ死んでいない! さっさと逃げるんだ!」私がそう叫ぶと、冒険者の男はこちらを見て頷いて、仲間たちのいる所へ逃げていった。


 ちゃんと逃げたのを確認したそのとき、標的がおもむろに起き上がった。


「スキル! 毒弾!」そして、コッキングをした。


 標的は意識を取り戻し、木々を薙ぎ倒しながら鬼の形相でこちらに迫ってきている。


「パァン! パァン!」


 1発目。首を狙って撃った。命中。素早くコッキングをして、2発目。標的との距離が近いため、後ろに下がりながらまた首を狙って撃った。命中。


 2発目を当てた時、私と標的との距離があまりにも近かったため、木の後ろに飛び込んでコッキングをした。しかし、その必要はなかったみたいだ。


 毒が効いてきたのか、大きい音を立ててその場に倒れた。


 ちゃんと死んでいるかを確認した後、さっきの冒険者たちがいる所へ向かった。


「ヒール! ヒール!」相変わらずそう唱えている声がしている。その声色は今にも泣きそうだった。さっき血塗れの竜と戦っていた男は、その魔法使いの女の子の肩に手を置いて俯いていた。


「大丈夫ですか…」出しかけた言葉が喉の奥につっかえた。なぜなら、木の根元に横たわっていた怪我人は、誰がどう見ても治しようのない姿をしていたからだ。


 治癒魔法を唱える声が、閑散とした森の中に虚しく響いていた。

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