第6話 新米冒険者(44)

 朝が来た。そういえば、まともなベッドで寝たのはいつぶりだろうか。住む家があるのはとてもありがたいことなのだと改めて実感させられる。


 今日は冒険者ギルドに行く日だったことを思い出したので、朝食を食べて、いつもの服を着てから部屋を出た。


「すいません。少しお尋ねしたいことがあるのですが」宿の1階の受付にいる大家さんに話しかけた。


「なんだ?」


「冒険者ギルドに行きたいんですが道のりが分からなくて。教えてくれませんか?」


「口で説明するのは難しいから地図を描いてやるよ」大家さんはそう言って、慣れた手つきで簡易的な地図を紙に描いた。


「ありがとうございます!」


「おうよ。お客さんは冒険者なのか?」


「いや、今から冒険者になるんですよ」


「その年齢で冒険者になるのか? すげぇな! 俺も見習わなくちゃな。頑張れよ!」


「ありがとうございます!」大家さんに激励され、前向きな気持ちで外に出た。


 大通りに出てみると、朝の買い物客や走り回る子供、剣や杖、盾を持っている冒険者らしき人たちで賑わっていた。


 大家さんに描いてもらった地図の通りに道を進むと、20分ほどで冒険者ギルドに着いた。木造の二階建ての四角い建物だった。お世辞にも豪華と言える見た目ではない。


 観音開きの大きな扉が開け放たれていたので、そこから中に入ってみると、食堂と受付が一体化したような広い空間が広がっていた。酒を飲んでいる人もいて、朝から賑わっている様子だった。


 あまり見慣れない奴がいるとでも思われているのか、ジロジロと視線を向けられたが、特に話しかけられるなんてこともなかったので、受付らしき場所まで歩いた。


「すいません。冒険者ライセンスの登録をしたいのですが」


「分かりました! まず、お名前を教えてください」受付嬢が紙とペンを差し出してきたので、本名を書いた。


「あなたが千葉昌彦様ですか! 調査院からあなたのことは聞いています。すぐに発行しますので少々お待ちください!」


 ルルシエルの行動の速さに感心した。


 私の後ろに並んでいる人がいたので、受付横のベンチに座って待つことにした。


「おいおっさん! そこは俺たちが座る場所だ! さっさとどけ!」私が座って5分もしないうちに、冒険者と思われる3人組のうち1人がそう言ってきた。他の2人は気まずそうな顔をしている。


「なぜどかなくちゃならない? このベンチはお前の物なのか?」あまりにも理不尽な言い分だったので、冷静な口調で言い返した。


「俺はCランクの冒険者だ! おっさんは今から冒険者になるんだろ? なら年長者とか関係なくそこを譲れや!」


「Cランク…?何なんだそれは?」


「千葉昌彦様! 冒険者ライセンスの登録が済みました」私と3人組との間に受付嬢の綺麗な声が割って入ってきた。


「今行きます」私はそう言うと、何事もなかったかのように席を立ち、受付に向かった。


「冒険者デビューおめでとうございます!」そう言って、受付嬢が冒険者ライセンスを渡してきた。


「ありがとうございます」少し恥ずかしいが笑顔で受け取った。


「昌彦さんは調査院で特別な任務を果たしたとのことですのでBランクからのスタートです!」


「さっきから気になってたんですがそのBランクとかCランクって何なんですか?」


「ランクというのは冒険者の能力を示す指標です。SS・S・A・B・C・D・E・F・Gの9段階で区分されています。ランクが上がれば上がるほど受けれる依頼の難易度も上がります。ほとんどの人がGランクからスタートなのでBランクからっていうのはかなりレアケースですね」


「そうですか。まあ頑張りますよ」


「はい! 依頼を受けたい時はあちらのボードに貼られている紙を持って受付に来てくださいね」


 受付嬢に礼を言って冒険者ギルドを後にしようとしたが、よく考えてみると、狩猟以外には特にやることがないということに気づいた。思い返してみると、日本でいた頃も日中はほとんど毎日狩猟しかしていなかった。ということで、早速依頼を受けてみることにした。


 依頼が貼り出されているボードの前に来た。ボードに貼られている依頼は、ランク毎に区切られているなんてこともなく、無造作に様々な大きさの紙が貼られていた。


 どのモンスターを狩りたいとか、依頼の報酬がどうとかみたいなのは正直どうでもよかった。私は最初に目に入った、『Cランク以上』と書かれた依頼をボードから取って、受付に持って行った。


「この依頼を受けたいのですが」そう言って、受付嬢に紙を差し出した。


「ブルース大森林のブラックボア複数体の狩猟になります。狩った個体数によって報酬が変わるので、牙を持って帰ってきてくださいね。個体数が多いため危険ですので注意してください」


「分かりました。それと、ブルース大森林ってどこにあるんですか?」


「地図をお渡ししましょうか?」


「そうですね! ありがとうございます。」


 受付嬢からもらった地図は、ロウサーニャ王国全土が載っている大きな地図だった。これはありがたい。


 地図を頼りに街を出て、のどかな平原の道を2時間ほど歩くと、ブルース大森林に着いた。大森林というだけあってとても広大で、その遥か彼方には山脈が連なっていた。


 これまで歩いてきた平原の道は、大森林の奥に続く道へとつながっていた。そのまま歩いて大森林の中に入ったその時、微かな獣臭さを感じた。






















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