第4話 異邦人

 独房に入れられて2日目の朝。伸びた髪と髭を整えさせられた後、事情聴取を受けた。


 事情聴取では、エイリエナに来て4年間の出来事を事細かく全て話した(神様に送られてきたということは言わず、遥か遠方の国から来たとまた嘘をついた)。


 それ以外のことはあまり深く追求されなかったが、何やら向こうはざわついているようだった。まあ、ざわつくのも無理はないだろう。未開の地で4年間も狩りをして暮らしていたという驚愕の事実は、自分でも信じられないし、怪しまれるというのも仕方がないと思う。


 私の処置について上に相談でもしているのだろうか。それ以降10日間何も訊かれていない。早く外に出たいと思いながらも、今はただ大人しく独房の中で過ごした。


 そう思っていた矢先、独房の扉が開いて、何やら聞き覚えのある声が聞こえた。


「今度こそは本当にお迎えに来ましたよ! 昌彦さん!」


「ラヴァルさん!」


 慣れない独房生活によって弱ってしまい死んだように寝転がっていた私の前に現れた、白と青の制服を着た華奢な男、ラヴァル・レエンは、私の目にはまるで神様のように写った。


 どうやら私は本当に釈放されるらしく、銃やマチェットナイフも返してもらえた。


「短い間でしたがお世話になりました」私は看守にそう言うと、ラヴァルと一緒に正面玄関から外に出た。


「本当にごめんなさい! 騙すようなことをしてしまって!」ラヴァルは外に出てすぐに、人目も気にせずお辞儀までして謝ってきた。


「謝らなくても大丈夫ですよ! 捕まるようなことをしたのは私の方ですし。というか、なぜわざわざ私を助けてくれたんですか?」お辞儀をしたラヴァルをなだめながらそう訊いた。


「あなたは法律的には確かに悪かもしれませんが、調査院からしたら恩人なんです!」


「恩人ってどういうことですか?」


「実はあの地域には非常に強いモンスターがいてですね…恥ずかしながらそのせいで調査が難航していたんですよ。僕には分かりますよ。あの"血塗れの竜"を倒してくれたのは昌彦さんですよね!」


「血塗れの竜? そんな禍々しい奴を倒した記憶はないですけど…」


「赤黒い色の2足歩行の大きいモンスターを倒した覚えはありませんか?」


「ん? ああ! あいつですか。確かに1年ほど前に倒しましたよ」


「やっぱりそうですよね! 昌彦さんしかいないんですよ! あの山であいつを倒せる人は。改めてありがとうございます!」


 大通りを歩きながら、私が狩りをしていたおかげでモンスターが少ないため着々と調査が進んでいるというような話を聞いた。こっちはただ狩猟をしていただけなんだが…そんな話を聞きながら10分ほど歩いたら目的地に着いた。


「到着です! ようこそ調査院本部へ!」


 目の前にあるのは、白い石で造られた5階建ての大きな建物だった。門には"調査院本部"と彫られている。


 私はラヴァルに連れられて、建物の最上階にある会議室のような部屋に入った。


「少し待っていてください。ルルシエルさんが来ますので」そうラヴァルに言われたので、椅子に座ってルルシエルという人物を待つことにした。


「ラヴァルさん。少しロウサーニャ王国について質問してもいいでしょうか?」待っている間、全く知らないロウサーニャ王国という国について質問することにした。


「もちろんいいですよ! あと、僕相手に敬語を使わなくても大丈夫ですよ」


「そうか。なら、慣れないけどそうさせてもらうよ。質問なんだが、調査院とか審判院って何なんだ?」


「ええ!? そんなことも知らなかったんですか!? あっすみません! えっとですね…」


「ああ。遠方の国から来たから、実はこの国のことを何も分かっていないんだ。だから片っ端から教えてくれないか?」


「任せてください! ところで僕も質問なんですが、遠方の国というのはどの国のことなんですか?」


「そ、それは…遥か昔のことだから忘れてしまったよ…記憶も曖昧なんだ…」


「そうですか…それは悲しいですね…」ラヴァルの優しい反応に少し罪悪感を感じた。


「ですがこの国に関しては任せてください!」ラヴァルは胸を叩いてそう言うと、説明を始めた。


「この国には調査院と審判院と王立院という三院と呼ばれている組織があるんです。調査院は主に未開の地の調査やモンスターの研究に携わっています。そして、審判院は犯罪の取り締まりや裁判をしています。この審判院は、昔から僕たち調査院とはなぜだか仲が悪いです…昌彦さんを捕まえたのはこの審判院です。そして最後、王立院は国内の政治や外交に携わっています」


「大体は理解した。しかし、なぜ仲が悪い審判院から私を釈放させれたんだ?」


「確かに、普通は調査院が何をしても捕まってる人の釈放なんてほぼ不可能ですね。しかし! 昌彦さんが捕まっていたのはラッキーなことにブルースの分署だったんですよ! だから色々と怪しい昌彦さんでも、少し賄賂を出したら釈放してもらえました!」


「賄賂か…ところでブルースというのは? 街中でも時々目にしたが」


「そこも説明しないとですね…ブルースというのは三大都市の一つです。この国は三大都市という三つの都市に分かれていて、それぞれの都市にそれぞれの院があり、影響力を持っています。ちなみに、都市の市長は院の代表が兼任していますよ。ブルースなら調査院代表のルルシエルさんですね」


「ブルースにある審判院の分署は調査院と親しいから、私を釈放できたということか?」


「親しいというわけでもないですが、大体その通りですね」


「そうか。他の二つの都市も説明してくれないか?」


「はい。審判院があるのはこの国の南側にあるファズという都市です。裁判所などの施設がある近代的な都市です。王立院はこの国の西側にあるクリーンという都市にあります。港と王城がある街ですよ」


「ありがとう。どちらともいつか行ってみたいな」


「そうですね。特にクリーンは街並みが綺麗なので一度は行ってみた方がいいですよ!」


 そんな話を10分ほどした頃、他の調査院の人に比べて少し装飾が多い制服を着た金色の髪の女が、ドアをノックしてから入ってきた。


「待たせたわね。私がルルシエルよ」ルルシエルはそう言うと、私が座っている椅子の向かい側に座った。


 




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