第2話 異世界サバイバル
ただ呆然と立ち尽くしていても何も始まらないと思い、ひとまず喉の渇きをどうにかしたかったので、山を下って川を探すことにした。
それに、ここが本当に神様が言っていたエイリエナという世界なのだとしたら、全く土地勘がない私はまず水場を探すべきだ。サバイバルの基本である。
山を下って1時間ほどで川を見つけた。山道なんてものはもちろんなかったが、思いの外雑草などの障害物が少なかったため早く着いた。
そして、山を下り川を探す最中で色々分かったことがある。
まず、この世界はエイリエナで間違いなさそうだ。というのも、山を下る最中にこれまでに見たことがないほど大きな牙をした猪を見た。体長だって2メートルは優に超えていただろう。それを、この短時間で10匹は見た。
それに、空にはプテラノドンのような見た目の生物が飛んでいる。どちらとも私と距離がかなり離れていたため、運よく襲われはしなかったが、こんな化け物が当たり前だというのなら、前いた世界に比べて、動物の危険度は比較にならないほど高いだろう。神様が、生涯を狩猟に捧げた私をわざわざ送ってくれるわけだ。
そして、川に着いてから分かったこともある。
生前の私なら、とてもじゃないが信じられないことだろう。水面に写る自分の顔をみてようやく気づいた。私は若返っている。見た目年齢で言うと、大体40歳くらいだろうか。お爺さんからおっさんになったのだ。
しかし、腰が抜けるほど驚きはしなかった。ある程度は驚いたが、これまでエイリエナに来るまでにあったことを考えれば、それほどのことでもないだろう。
それに、山を下る最中にも何か違和感があると思っていた。というのも、体と脳の動きが前に比べてとても俊敏になっていたからだ。思考回路も若返っている気がする。
生前の年齢のままだと、またすぐ死んでしまうから神様が若返らせてくれたのだろうか。何にしろ若いに越したことはない。神様に感謝しなくては。
ちなみに、服装はいつも仕事の時に使っていたハンティングジャケットとジーンズと黒いブーツになっていた。
水を飲んで顔を洗ってシャキッとした私は、前より回転する頭で自分がこれからどうすべきかを考えた。
「神様は私にモンスターを狩ってもらいたいと言っていた。ならばその通りにするべきか…しかし私にあんな化け物を狩れるのだろうか…とにかく狩るためには銃が必要になるな…」そんなことを呟いて、銃が欲しいと思ったその瞬間、目の前に例の猟銃が2本出てきて、その場で浮かんでいた。
便利なものだなと若干拍子抜けしつつも、ライフルの方を取った。ライフルを取ると散弾銃の方は消えた。これで、いつでもすぐに切り替えれるし収納できるということか。まあ便利に越したことはない。
(しかし銃があっても弾がないとどうしようもないな…確か神様はスキルがどうとか言っていたな…)
「スキルってなんだよ…」私がそう呟くと、スキルという言葉に反応したのか、目の前に24インチほどの大きさのタッチパネルが現れた。
「これはどういう技術なんだ?」少し呆れた様子で、冗談混じりにそう呟きつつ【スキル 弾薬補充】と書かれているところを押してみた。それを押した瞬間、私の腰にある生前から使っていた黒いポーチが重たくなった。何が起こったのか大体察しつつも開いてみると、ライフルの弾薬がキッチリと収まっていた。
「これはもう魔法じゃないか…」またも少し呆れた様子でそう呟いた。
(弾も手に入ったということは、これで狩りができるな!)
かつてないほどの強敵との戦いに、勝てるのかも分からないのに、緊張しつつも胸を膨らませていた。もう一度、最初にいた山に登って、標的を探すことにした。
探し始めてから5分も経たずに標的は見つかった。
標的とするのは山を下りてくる時に見たのと同じ種類の猪1匹で、体長は3メートルあるかないかくらいの、エイリエナの猪でも大型な方と思われる個体だ。
標的は、少し傾斜がある獣道の遠くでたたずんでいる。私は慣れた足取りである程度の距離まで近づき、慣れた手つきでポーチから弾を取り出し、装填して、銃を構えて、スコープを覗き、その黒々とした大きな体の急所を、全神経を集中して狙った。
「パァン!」
重たい銃声が辺りに響き渡り、木々にとまっていた小鳥たちが一斉に飛び立った。
(まだ死んでいない!)
弾丸が側頭部を貫いたにもかかわらず、倒れもせずにこちらを振り向いた。どうやら、私が攻撃したことに気づき、私を標的にしたようだ。
その瞬間、標的は私目掛けて突進してきた。私との距離は50メートルほど。近づいて来ると、その大きさを改めて実感する。私は、冷静に銃をコッキングして、標的の眉間を狙って撃った。
「パァン!」
私の弾丸は確かに標的の眉間を貫いた。標的は立ち止まり数秒ふらついた後、ドシンという音を立てて倒れた。最終的な標的と私の距離は、僅か10メートルほどだった。
「早速死んでしまうとこだったな…」
全身の緊張が解けた私は、腰を抜かしたようにその場に座り込んだ。
「この銃でも一応この世界の化け物…モンスターを狩れるということだな」
その後、生前から腰のベルト部分に装備していたマチェットナイフで猪を解体して、解体した肉を持って川辺へ行き、木で火を起こし、肉を豪快に焼いて食べた。毎日でも食べたいほど新鮮で弾力があって美味しかった。
今日はもう疲れたので、川辺にあった浅い洞窟で眠った。
それから1週間ほど、狩猟で狩った獲物や、食べれそうな野草を食べて川辺の洞窟で眠るというサバイバル生活をしつつ山を探索して分かったことなのだが、この山はやはり人の手がつけられていない、もしくは数年誰も来ていないような、言わば未開の地だ。
そして、最初に送られてきた山の頂上付近(意外と標高は低い)から辺りを見渡すと、目に届く範囲内は全て山だった。周りの山のほとんどがこの山よりも標高が高く、遥か遠くには5000メートルは優に超えていそうな山も見えた。
そのため、ここからどっちへ行けば人里なのかも分からないし、そもそもエイリエナに人が存在するのかすら分からない。
最初ここに送られてきたのにも何か理由があるかもしれないし、あまり動かない方がよいだろう。
それに、神様が言っていたモンスターを狩るという目的はここでも十分果たせているし、食事も狩った獲物の肉や野草を食べていれば生きていけるので、これからもこの山近辺でサバイバル生活をしながら狩猟をしていきたいと思う。
幸い、サバイバルには多少の心得がある。
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