第15話 魔力操作をしてみよう

「というかなんでエヌがここに居るんだ?」


「すごい今更なこと聞くねティオは。理由は単純、受けてたクエストが終わったからこっちに戻って来た、それだけ」


「あぁ……なんか面倒くさそうなクエストを受けてたな」


「ギルマスがすべて悪い」


「同意見だ」


「……二人って仲良いんだね」


「「そんなに仲良くない(ぞ)」」


 これは間違いなく仲良いわ、だってコンマ1秒たりともずれが無かったもん。


「じゃあ二人はどういう関係なの?」


 しかしここでまた「仲が良いんだね」と言うとややこしいことになりそうだったため、俺は一旦彼女らをスルーして二人の関係性について質問する。


「昔一緒に冒険してた時があってな、まぁ腐れ縁みたいなやつだ」


「あの時は苦労した。何度私がティオの尻拭いをしたことやら」


「それはこっちのセリフだエヌ。お前は私生活、特に男関係がだらしなさすぎる。そのせいで私がどれだけの迷惑を被ったと思ってるんだ」


「私はティオと違ってモテたからしょうがない。でもこれからは大丈夫、私はもうノアしか抱かないって決めたから」


「ノアはお前のことを断固拒否していただろ!そもそもノアをその……だ、抱くのは私だ!!」


 しれっととんでもないことを言うエヌと恥ずかしそうにしながら俺のことを抱く宣言するティオ。申し訳ないけど俺は二人とそういう関係になるつもりは今のところ全くないのだけれど……。


「……二人は仲良いんだねー」


 俺は二人に聞こえない様に小さく呟いた。


「そうだ、ノアは魔法が使えるようになりたい?」


「え、うん。出来れば使えるようになりたいけど……そもそも魔力を操作すること自体出来てないんだよ」


「そこで私が教えようとしてたんだが──────」


「ティオの説明何言ってるか分かんなかったでしょ?大丈夫、あれはティオがおかしいだけだから」


「おかしいってなんだ!出来るだけ分かりやすく説明したつもりだぞ!!」


 エヌが流れるようにティオがおかしい発言をし、それに対して即座にティオがそんなことは無いと声を上げる。申し訳ないけどこれに関してはエヌの方が正しいと思う。


「どうせばごーんとか、ぎゅーんとか子供が使うような擬音語ばっかり使ってた……というか最後の方は聞こえてた。あんなちんぷんかんぷんな説明で理解できるはずがない」


「ま、まともだぁ……」


「ノア失礼、私はいつもまとも」


 俺はエヌの言葉に感動を覚える。さっきまであんな初対面で結婚してくださいという奇天烈発言をしていたが、急に常人みたいな事を言い始めたエヌに俺はつい言葉を漏らしてしまう。


「いつも……ではないと思うけど」


「まぁその話は一旦置いておいて。ノア、もし良かったら私が教えてあげる」


「いや、私が教えるからエヌは引っ込んで──────」


「え、いいの?」


「うん、私ならティオの100倍分かりやすく説明できる」


「よろしくお願いします!」


 俺はエヌの提案を快諾し、彼女に対して頭を下げる。今日は無理だなと諦めていたけど希望が見えてきた。


「任せて、でもその代わりお願いがある。私もノアのパーティーに入れて欲しい」


「駄目だ!私とノアのパーティーに入りたいならまずは私の──────」


「うん、いいよ!」


「ノア!?」


「ありがとうノア、これからよろしく」


「よろしくエヌ」


 俺は差し出された手を握り、固い握手を交わす。パーティーに人が増えるのは良い事だし、エヌがパーティーに加われば魔法で分からないことがあれば聞ける。変なことをされる可能性はない訳じゃないけど……まぁ俺が本気で嫌がるようなことはしないだろう。


「……さっきから私の事無視しすぎではないか?」


「「そんなことはない(よ)」」


「そんなことあるだろ!!」




 訓練場の隅っこで拗ねてしまったティオは一旦置いておいて俺はエヌと魔力操作の訓練を始める。後でティオには何か埋め合わせをしよう、そうすればすぐに機嫌が良くなるはずだ。


「まずは魔力について。魔力は全ての動物と植物が持ち合わせるエネルギー。大気中にも溢れてるけどこの場合言い方が魔素に変わる」


「動物も植物も魔力を持ってるんだ」


「うん、持っていない生物は今のところ見つかってない。魔力についての説明は軽い説明はここで終わりにする、詳しく説明して欲しかったらまた後でしてあげる。じゃあ早速魔力操作の練習を始める」


「お願いします!」


 魔力について手短に説明してくれたエヌはこちらのワクワクを読み取っているのか魔力操作の練習に移ってくれた。……やばい、めっちゃ楽しみ。魔力操作が出来れば色々な魔法が使えるようになると思うし、頑張らないと。


「任せて、それじゃあ早速だけど右手をこっちに広げて欲しい」


「こう?……ってエヌ!?」


 俺は言われるがまま右手をパーにし、手のひらをエヌに向けるとエヌは恋人繋ぎのように指と指を搦めて手を握ってくる。そして握った手を強引に引っ張り、前のめりになった俺の体を抱きしめ、手のみならず足まで絡めようとしてくる。


「ちょっ!?魔力操作の練習じゃ……って熱!」


「ノアは敏感だね。今右手から流れてるその熱いものが魔力、この感じだと多分ノアはすぐに魔力操作できるようになる」


 まるで熱いお湯の中に手を突っ込んだ時の様に手全体に熱い何かが走る。エヌ曰くこの熱い何かが魔力らしい。今までに感じたことの無い不思議な感覚に俺の脳みそが驚いているのが分かる。


「魔力を感じ取れたなら次のステップに行く。魔力は普段体内に点々と散らばっている、それをお腹の辺りに集めてみて。バラバラなちっちゃい玉を自分のお腹に集めて大きい玉にするイメージ」


「ちっちゃい玉を大きく……」


 俺は脳内で自分の体内に点在する小さな魔力の玉をお腹の辺りに集中させていく。胸、腕、手、足、体のあちこちにある魔力を一か所に集中させるイメージで……。


「……うん、しっかりできてる。ノアは才能がある」


 分かる、自分のお腹にさっきの熱い何かが集まっているのが。今までに感じたことの無い感覚がお腹から全身に巡るのが。


「すごい……これが魔力……!」


「それじゃあ次は右手に魔力を移動させてみて」


「やってみる」


 俺は目を閉じ、自分の魔力に意識を集中させる。お腹から右手にゆっくり、ゆっくり魔力を移動させる。


「うん、完璧。その動きがスムーズに出来るようにこれから練習していこう。この動きが魔法の基礎になるから。じゃあ次は魔力を広げてみよう」


「魔力を広げる?」


「今は一か所に集まっている魔力を体全体に行き渡らせるの。魔力を血液と似たようなものだと思ってみて。血と同じように魔力を胴、手、足と張り巡らしていく。これが出来れば身体強化が出来たとほぼ同義。ちょっと難しいかもしれないけど……多分ノアなら出来る」


「とりあえず頑張ってみるね」


「頑張って」


 俺は右手にある玉を体全体へと広げていく。ぐぬぬ……これかなり難しいぞ。


「ある程度広がったら魔力で線を描くみたいなイメージを持つとやりやすいかもしれない」


 線を描く……。こんな感じかな?


 俺はある程度魔力を広げた後、散らばった魔力同士を結ぶように魔力で線を伸ばしていく。目を瞑って魔力に意識を全て割かないとこの状態を維持できない……難しいしめっちゃ疲れるなこれ!


「すごく良い感じ。その状態で動いたりするといつもより早く動ける……よく頑張った、もう解除してもいいよ」


「ふぅ……慣れるまで大変そうだねこれ」


「大丈夫、ノアならきっとすぐに慣れる」


「頑張るよ。それとすごく分かりやすかった、教えてくれてありがとうエヌ」


「どういたしまして」


 俺は体の力を抜きリラックスする。これからしばらくの間は魔力操作の練習を頑張るとしよう。エヌにも才能があるって言われたし、モチベーションはすごく高い。これならすぐにでもマスターできるかもしれない。


「……ところでエヌ」


「何?ノア」


 俺はこてんと首を傾げるエヌの瞳を見つめる。


「ここまで近づく必要あった?」


「……知らなくても良い事って世の中にはたくさんある」


「意味なかったんかい!じゃあ今すぐ離れてよ!!」


「このまま私を受け入れるという選択肢は──────」


「ない!!!」

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