第14話 プロポーズ
「改めて初めまして。私はエヌ、Aランク冒険者のすごいエルフだよ」
えっ、この人ティオと同じAランク冒険者だったの!?
自己紹介と共に添えられた衝撃の事実に俺は大きく目を見開く。自分よりほんの少しだけ身長の高い金色の髪を持つエルフは何食わぬ顔で自分がAランク冒険者であることを告げる。体型、身長共にティオと比べるとか弱い印象を受けるが、彼女は自分よりも遥かに強いらしい。
俺の驚いた顔に気が付いたのか、エヌは分かりやすく胸を張りドヤ顔を浮かべる。こう見るとやはり幼さを感じ、自分と同い年か少し年下というイメージを抱いてしまう。
「俺はノアって言います。訳あってティオとパーティーを組んでいます」
「そうなんだ。まぁそんなことは置いておいて」
「そんなこととは何だエヌ!」
「まぁまぁ……ちょっと落ち着いてティオ」
「……ノアがそう言うなら」
エヌの言葉に噛みついたティオを俺はそっと諫める。きっとティオとエヌは仲が良いんだなぁ。じゃないと流れるようにティオのことはどうでもいい発言は出来ないだろうし。
「改めて、私と結婚して欲しい。私と結婚してくれたら毎月たくさんのお小遣いも上げるし毎晩良い思いをさせてあげるし衣食住何不自由ない生活を約束する。どう?すごく魅力的な提案だと思わない?」
「えと……ごめんなさい」
うん、ドラマの世界でもいきなり結婚してくださいはほとんどない展開だと思うよ?
俺はエヌのプロポーズを丁重にお断りする。流石に初対面の人と結婚というのは無理がある。お互いのことを知って、それでこの人と一緒に居たいと思ってからじゃないと結婚というのは出来ない。だからせめてお友達からにして欲しい。
「……もしかしてノアはティオと付き合ってる?」
「え、ああ……ま、まぁ?見方によっては──────」
「あ、ティオとは全然そういう関係じゃないです」
ティオは何俺と付き合ってることにしようとしてるの?しかもきっぱり否定されて悲しんでるんじゃないよ。まるで嘘を吐かれたみたいな顔をしてるけど俺とティオが付き合ってないのは紛れもない事実だからね?勝手に捏造しようとしないでね?
「じゃあなんで私と結婚してくれないの?私は顔も良いしお金も強さもある。それなのに結婚しないと即答するのはおかしい。ノアは好きな人でもいるの?」
「え!?ノアは好きな人がいるのか!?いつの間にそんな奴出来たんだ!!!私というものがありながら──────」
「ややこしくなるからティオはちょっと黙ってて!後好きな人はいないしティオとも付き合ってないから!!」
まるで父親の様に声を荒げるティオに俺は少しの間お口にチャックする様命じる。エヌに言葉だけでもかなり「何言ってるんだこの人」状態なのに余計に紛らわしくさせないで欲しい。それと付き合ってないって言われてさらに落ち込むのはやめて欲しい。事実を言っただけなんですけどこっちは。
「ノアは好きな人いないんでしょ?じゃあ私と結婚するべき」
「何でそうなるのさ……」
先ほどから独自の理論を展開していくエヌに俺は呆れと共に言葉を返す。この世界の人の頭がおかしいのか、それとも俺の運が無さすぎてやばい人としか会えていないのか……。うーん、どっちもありそうだなこれは。
「まず客観的に見て私は美人で、ノアも美人。美人同士が惹かれ合って結婚するのは当たり前のこと」
「うん、もうこの時点でおかしいけど一旦続けて?」
ツッコミたい衝動が湧き出てきたが、そんなことを逐一してたらキリが無いと思ったため俺はエヌに続けるよう促す。あまりにも奇天烈な発言をするエヌに俺はもう自然と敬語が抜けてしまっていた。
「そして私は世間から見てとても地位が高い。Aランク冒険者なんて一握りの人間、強さも財力もそこらの人より優れている」
「まぁ……うん、そうだね?」
これは紛れもない事実ではあるため何も言う事が出来なかった。実際そうなのかもしれないけどそう言うのは口に出さない方が良いと思うんだけど……まぁこの際置いておこう。
「そんな私と結婚すればノアは何不自由ない生活が出来るしおまけに美人の私と生涯を共にすることが出来る。そして私はノアという可愛い男の事イチャイチャしてずっこんばっこんできる。お互いに利しかない、だからノアは私と結婚するのが当然」
……何を言ってるんだこの人は?????
改めて説明を聞いてみたが、納得できた部分は彼女が強くてお金持ちであるということくらいだ。それ以外の部分は本当に何を言っているのか、どうしてそうなるのかが分からない理論を形成している。あれだ、この世界の女の人はやっぱり信用しちゃだめだわ。
「だからノア、私と結婚しよう。そしてたくさんエッしよう」
「あ、丁重にお断りさせていただきます」
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