第13話 誰!?
クエストを始めて失敗した翌日、俺とティオは冒険者ギルドに併設されている訓練場へと足を運んだ。低難易度のクエストという事もあり違約金は少ないものだったが、失敗した理由をフィユさんに話すのは少し恥ずかしいものがあった。
案の定フィユさんにはくすくすと笑われ、「次は頑張りましょうね」と頭を撫でられながら慰められてしまった。あの時の羞恥心はもうひどいものだった……次からは可愛い魔獣を倒す系のクエストは受けない様にしよう。
「それじゃあまずは魔力の操作からだ」
「はい、お願いします!」
とまぁ恥ずかしい思いをしたことは一旦置いておいて、今日は魔力の操作と魔法の訓練の日だ。ファンタジー世界を代表する存在である魔力と魔法、それらを習得できなければ異世界を生き抜くことは難しいものになるだろう。
……まぁそもそもの問題として俺の身体に魔力があるのかどうかとか、今まで魔法というものに全く縁が無かった俺が魔法を使えるようになるのかという不安や疑問は沢山あるが、異世界転生した時の特典があるかもしれないというひと握りの希望を持って俺はティオに大きな返事をする……のだが──────
「どうだ?分かったか?」
「……ごめん全く分かんない」
うん、当分の間魔法は使えなさそうだわ。
ティオの説明はそれはもう酷いものだった。「体の中にある熱いものをぎゅっとして、ぐるぐるってして、ギュイーンってすればいい」という幼稚園児とためを張れる説明をされ、俺の頭には疑問符が一杯浮かんできた。いや分かるわけなくない?
どうやらティオは天才型なのか説明が擬音語ばかりで何をどうしたらいいのか全く分からない。唯一分かるのが体の中にある熱いものという部分だけで、それ以外は何をどうすればいいのか想像もつかない。ぎゅっとしてギュイーンじゃないんですわ。
「だからこう……ぐっとして、ぐわああああってしてグワングワンって感じで──────」
「余計分かんないよ!」
より抽象度が増した説明に俺は大きな声を上げる。なんで2回目の説明の方が分かりにくいんだよ!普通こういうのって修正されてより分かりやすくなるはずじゃないの!?
せっかく魔法を使えるようになると思ってワクワクしていたのだが、どうやら当分の間は魔法が全く使えない状態が続くらしい。……まぁ魔法が使えない状態が素であるから問題はないのだが、それはそれとして早く魔法が使えるようになりたい。
「うーん……でもこれ以上分かりやすく説明するのは難しいな……」
お前は一体何を言っているんだと言いたくなる気持ちをぐっとこらえてジト目でティオを見つめる。逆にどうやったらそんな分かりにくい説明が出来るのかを教えて欲しいくらいだ。
「ティオは相変わらず説明下手、そんなので分かる人は世界で10人もいない」
「そうだよティオ……ってうぇあ!?」
俺の後ろから聞いたことない声が聞こえる。ついノリで彼女に同意してしまったが、全く知らない人にため口を使ってしまったのだ。申し訳なさと驚きが混ざり合う中、一体誰がティオに話しかけたのか振り向こうとした次の瞬間、華奢な手が蛇のようにぬるりと俺の身体をまさぐり始めたのである。
「君、とっても可愛い。それに……いい匂いがする」
片方の手で上半身を触り、もう片方で太もも付近をそっと触る。これだけでもぞわぞわとした感覚が体中を走るのだが、後ろにいる人はさらに耳元に鼻と口を押し当て、俺の匂いをすんすんと嗅いだ後にゼロ距離で囁いてくる。
背中と腰辺りにぞくりとしたものが走り、俺は体を大きく揺らす。俺の反応のせいか、後ろにいる女性はヒートアップしてしまったのか、お腹当たりにある手と太ももに置いてある手を上の方へとゆっくりスライドさせていく。
「大丈夫、私に全てを委ねてくれたら気持ちよくなれる。さぁ、一緒に理性ある人間から獣へと戻ろ──────ふべっ!」
「おい、いい加減ノアから離れろこの性欲怪獣!」
「いたた……ティオはすぐ暴力を振るう。そんなだから男居ない」
「エヌには関係ないだろ!!」
ようやく解放された俺は息を整えながら、声のする方へと体を向ける。そこには自分と同じくらいの身長をした金髪の女性がいた。彼女はローブのようなものを羽織っており、魔法使いなのかなという印象を感じる。そして目を奪われるのは彼女の耳、俺やティオの物とは違い彼女の耳はぴんと尖っているのだ。
「エルフ……?」
「正解。私はエルフ族のエヌ、君の名前は何?」
「俺はノアって言います……ってちょっ!?」
自己紹介の途中でエヌは顔をずいっとこちらへ寄せてくる。もう数cm近ければぶつかってしまうだろう。
「私、君に一目惚れした。もう他の男を抱いたりしないから私の物になって欲しい」
「いやっ……その……」
ち、近すぎる!さすがにもうちょっと離れて欲しい!
体をのけ反らせて距離を取ろうとするも、後ろに下がった分エヌは顔を寄せてくる。さらには俺の胸部へと手を当て、こちらに近づいてくるため逃げようにも逃げることが出来ない。まさか後ろに下がるのが悪手になるとは……だから近い!そして息が荒い!!
「大丈夫、私が一生養ってあげる。だからノアは私の事だけを考えてくれたら──────」
「だからノアから離れろと言ってるんだ!!」
「ふべっ!!」
エヌは頭から伝わる衝撃によって、その場で頭を抱えて蹲る。俺はティオの渾身のチョップにより何とか逃れることが出来た。まさかティオがまともに見える日がこんなにも早く来るとは……。
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