第13話-決戦の日 されど壁は高し-

「よっしゃ、どんとこいや!はぁ、はぁっ」


 週末の放課後、俺は柚葉と共にバスケ部の体験入部に参加していた。偶然にも一つ上の先輩、景虎さんと対戦している真っ最中だ。このワンオンワンでは、通常のバスケルールとは異なり、決めた本数でカウントするルールを採用している。これは中学時代に俺と先輩が交わした取り決めで、試合回数や点数配分がわかりやすくなるためだ。現在、スコアは二対一。俺が二本取っている状況だ。


「ふぅっ、これで三本目!」


 フェイントからのスリーポイント。体勢を崩した先輩には、このシュートは止められない。弧を描いたシュートが見事にゴールに決まった。


「やっぱり今回も勝てないか。これで五十戦五十敗一引き分けか」

「五十一戦一勝五十敗ですよ、先輩」

「次俺いいか、暁月」

「げっ、牛寅さん。いたんですか」

「いるさ、なんせスタメンだからな」

「そのスタメンさんが何故俺と?」

「まぁ敵討ちって奴だ。胸貸してやるからかかってこい」


 結局、それから一時間ほど勝ち抜き戦が始まり、高校スタメン組三人と対戦したが、全敗した。しかし、面白い試合ができた気がする。それに柚葉も目をキラキラさせて大満足の様子だ。ただし、同期組の視線が痛い。これ以上は続けられないと思い、体験入部を終了する。


「俺ともやろうぜ」

「すんません、先輩。もう終わりにしていいですか?時間ないんで」

「しゃあねえな。また来いよ、次こそは勝ってやるから」

「すんません」


 そう言って体育館を後にし、廊下にある給水機で水分補給をする。


「すごいね、先輩相手にあんなに勝っちゃった」

「あんなに腕が鈍ってるとは思わなかった。それもそうか、ほぼ一年やってなかったんだからな」

「でもやっぱりバスケしてる奏詩くんかっこいいよ。バスケ部入らない?私もマネージャーとして入るから」

「ダメだ。俺はあんなところ、入れない」

「どうして?」

「嫌なものは嫌なんだ。悪い、これから予定あるから。先帰る」

「あっ、待って。奏詩くん!」


 柚葉の呼び止めを振り切り、急いで教室に戻る。なぜ頑なにバスケ部に入ろうとしないか、理由は簡単だ。俺はバスケは好きだが、チームメイトだった連中が嫌いであるからだ。そこの問題が解決しない限り、俺は二度と部活動に入ってバスケをすることはないのである。


「あれ、暁月くんじゃん。どうだった?」

「悪い、仁科。話してる暇ないんだ」


 自分の席に置いてあるバッグを手に取り、急いで教室を後にする。吐き気がする。これは久しぶりの運動で酸欠になっているわけではない。二年前、母さんが死んだ時以来の苛立ちだ。


「はあ、ダメだったか。柚葉にも声を掛けなきゃ」


 歌織は急いで体育館に向かう。想い人から受ける初めての拒絶。その辛さを想像すると急足にもなる。彼が何に悩んでいるのか、全くわからない。歌織は悔しさを抑えながら柚葉に寄り添う。


「うっ、くっ。私、悔しいっ。告白成功して、勝手に舞い上がって。奏詩くんの気持ち、全然気づかなくて。私、奏詩くんの彼女、失格なのかな」


 歌織は遅すぎたと感じながら、悔しさに打ちひしがれている。本当に思い通りに進まないことがもどかしい。


「何よあの女、私の奏詩にちょっかいかけたりなんかして。決めた、次の標的はアイツにしよう。さて、どうしてあげようかしら」


 体育館の二階席には怪しげな生徒が何かを企んでいる。柚葉たちはそのことを知る由もない。今、彼らが迎えようとしているのは早すぎる梅雨のような、少年少女の春だった。

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