第12話-決戦前夜 交差する運命-

「彼に唆しといたわ。これで何か進んでくれるといいのだけれど。ミスターK」

「俺的にも進んでくれなきゃ困る。あいつがいつまでもトラウマ引きずってるのは嫌だからな、ミスK」


 ここは屋上へ続く唯一の道で、密かに会合が行われている。般若のお面をした人物と狐のお面をした人物が、狭い場所で話をしている。


「ごめん。やっぱりミスKはダサいと思うのだけれど」

「他に何かあるか?確か下の名前は歌織だからミューズとか?」

「いやだわ、そんなコードネームは。それならディーヴァがいいわ。というか本名出さないでよ、今は作戦会議中でしょ?」


 声が響く廊下では、隠し事をするにはあまり向いていない。中高一貫校のため、多くの生徒が出入りする場所である。般若のお面の人物が狐のお面の人物に追い打ちをかけるように後ろ指を突き刺す。


「ああ、はいはい。てかコードネーム歌姫は流石の俺も言いにくいから却下だな」

「まあコードネームは良い案あったらまた伝えるわ。それはそれとして上手くいくのかしら」

「それはあいつ次第だろ」


 ミスターKはお面を外し、手元にあるコンビニで買ったパンを取り出す。


「まあとりあえずは飯だ。腹が減ってはって言うしな」

「そうね、戦うのはあの子達なんだけれど。でも助言は常に必要よ赤橋くん。あの子達は人付き合いをろくにしてこなかった組み合わせなんだから、ケアをしっかりしないとでしょう?」


 ミスKもお面を外し、弁当を開く。そこには少し多めのおかずが入っていた。


「おお!今日のもまた良い品ばかりではないか!流石はミスKだ!本当いつも有難うな。おかずを分け与えてくれるなんて、救世主だ」

「はいはい、あんたの昼飯には彩りもバランスもなってないんだから。そんなんだと体壊すわよ」


 奏詩と柚葉のコンビは、昼休みにこのような出来事が起きていることなど知る由もなかった。



「よ、よう七草。これから用事あるか?」


 放課後、俺は依頼者との約束を果たすため、決意を胸に柚葉の席へと向かっていた。


「あ、ごめんね。今日はバイトあるの。どんな用事なの?」

「えっと」


 視線を仁科の方へ向けると、彼女はニマニマしながら見ており、俺の視線に気づくと視線を逸らす。


「暁月くん?」

「ああ、ごめん。部活決まったかなって」

「まだ決まってないよ?」

「明日、一緒に体験入部に行かないか?バスケ部なんだけど」

「えっ、いいの?えへへっ!わかった!明日ね、楽しみにしてる!」


 柚葉は立ち上がり、バッグを手に取る。嬉しそうにしており、犬の尻尾があればブンブンと振り回ているところだろう。どうやら一緒に体験入部しに行くのがかなり楽しみらしい。


「お、おう。楽しみにしててくれ」

「それじゃあ、バイト行ってきます」


 柚葉は可愛らしく敬礼をすると走って教室を後にした。柚葉がテンションが上がると敬語を忘れることに気づき、姉に対する反応も敬語を使っていなかったことを思い出す。身内に敬語を使うのも可笑しな話だが。


「俺も帰るか」


 自分の席に戻り、帰る支度をしていると、例の人が声をかけてきた。


「まあ及第点なんじゃない?」

「何がだ」

「デートの誘い方」

「うっ」

「それじゃあ私も用事あるから。明日頑張って」


 仁科さんも教室を後にした。彼女の背中からは何も感情を読み取れない。彼女が俺と柚葉に何を求めているのかはわからない。唐突に横にいる啓太に爆弾を投げてみた。


「啓太、何が悪かったかわかるか?」

「さあ?おれにもさっぱり」

「とりあえず啓太、お前今日」

「わあってるよ。言いたいことは。いいぜ、付き合ってやる。但し、キングバーガーセットな?」

「はいはい、そのくらいの依頼料は出すよ」


 隣の男は笑顔でハンズアップをしていた。様々なギャルゲーをこなしているオタクだ、面構えが違う。こいつのおかげで多少なりとも女性へのアプローチができている。こいつに一生頭が上がらないだろうと思いながら、俺たちは教室を後にする。決戦前の作戦会議へと向かうのだった。

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