第8話-曇りも果てぬ 春の夜の月-
「美味しかったな、パスタ」
「そ、そうですねっ。私も満足しました」
まだ体が熱く、胸の鼓動がドクドクと鳴り響いている。柚葉の顔をチラリと見ると、どうやら彼女もまだ照れているようだ。
「そうだ、また一緒に来よう。ここの店」
「あ、はいっ。そうですね、また来たいです!」
駅前のロータリーを歩きながら話していると、柚葉が口を開いた。
「あ、奏詩くん。私の家、駅の反対側なので」
「ああ、じゃあまた明日」
エスカレーターの方に向かって少し歩き、振り向いて手を振ってくる。それを見た俺が手を振り返す。そんなことを続けているうちに、数分が経っていることに気づいた。顔を真っ赤にさせた柚葉は、ようやくエスカレーターに乗って帰っていった。
*
「おかえり、兄貴」
「ただいま」
「夕飯は冷蔵庫に入ってるから。それと、今から一時間くらいは風呂に入るから、風呂場には近寄らないで」
家に帰ると、エプロン姿の妹、暁月心向が迎えてくれた。虹ヶ丘中学二年生の彼女は演劇部に所属している。いつもこっそりダンスを練習している努力家で、非凡な才能を持っている。妹が素っ気なくなってしまった理由は俺には見当もつかないが、ある時から毒舌になってしまった。何か学校で嫌なことがあったのだろうか。
「学校はどうだ?ちゃんとやれてるか?」
「それ、何のつもり?親気取り?辞めてよ」
「シングルファザーで仕事してる親父の代わりのつもりだ。何かあったら言ってくれ、俺が何とかしてやる」
「ふうん。兄貴、あの時何も言わなかったくせに」
「あの時?それはどういう」
「もういいよ、何も言わなくて。それと兄貴、女の匂いがするけど、何?彼女でもできたの?まあ、どうせすぐ捨てられるよ」
「あ、おい!こなた!全く、なんなんだ」
何が言いたいんだあいつは。あの時何も言わなかったとは何のことだったんだろうか。いくら考えてもわからないから、気にせずにやることをやってしまおう。二階にある自分の部屋に向かい、送風機を付けて環境を整える。制服を脱いで部屋着に着替えると、ベッドに座り込む。
「さてと、VRでもやるか」
オンラインゲームの電源を入れ、VRゴーグルを装着する。日課をこなして、あとは新武器でも買いに行くか。そう考えながらベッドに寝転び、ゲームに入るための合言葉を唱えた。
「ゴー・アクセス!」
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