第7話-春の心は のどけからまし-

「すみません、二名でお願いします」

「かしこまりました。奥の席にご案内します」


 イタリア中世の街ゴシック建築をイメージしたお洒落で綺麗な外装だったため、内装も期待していたが、予想を超えてお洒落なレストランだった。内装もゴシック建築を模しており、童話に例えるなら『ビーストとビューティ』のようだった。


「お冷とカトラリーをお持ちしました。ご注文はいかがなさいますか?」

「ランチセット一つで。柚葉はどうする?」

「私もランチセットで、お願いします」

「かしこまりました。ごゆっくりどうぞ」


 店員さんがキッチンに戻ると、おどおどしている柚葉を見て、俺は口を開いた。


「どうした? 緊張してるのか?」

「そ、そうじゃなくて!まるでイタリアですね。私、こういうお店好きなんです。美しいというか、綺麗というか。心が洗われるような、そんな雰囲気ですよね」

「俺もこういった雰囲気は好きだよ。それにイタリアみたいだって言ってたけど、行ったことあるの?」

「行ったことはないんです。夢の国では見たことがあるんですけど」

「夢の国か、小学生以来だなあ。妹と両親と一緒に行ったっけ」

「私は中学の時に親と行きました。また新しいアトラクションもできたらしいので行ってみたいです!」

「そうだな、俺も久しぶりに行きたいな」


 そう言って俺はコップを手に取り、一口飲んだ。柚葉はもじもじしながら店の雰囲気を楽しんでいるようだった。


「お待たせしました。本日のランチセットの前菜です。生ハムとルッコラのイタリアンサラダです。ドレッシングはシーザーとイタリアンからご自由にお選びください。ごゆっくりどうぞ」


 ザ・イタリアンなサラダが出てきた。お洒落で意外にも量が多いサラダだった。


「うわあ、美味しそう!写真撮らなきゃ」


 柚葉はスマホを取り出し、撮影を始めた。柚葉も今時の女の子なんだなあ。まあ、同い年で現在を生きる少年少女だからそれは当然か。


「俺も撮るか」


 スマホを取り出して写真を撮ってみるが、あまり美味しそうに撮れていない。まあいいか。


「奏詩くんも撮ったんですか?見せてほしいです!」

「お、おう。いいけど」


 スマホを渡すと、柚葉はじっくりと眺めている。


「これじゃあ全然映えてないです。逆光を背景にしてみるといい感じに撮れますよ!」


 柚葉からスマホを返してもらおうと手を伸ばすと、偶然にも指が触れ合ってしまった。


「ひゃっ!?」

「ご、ごめんっ。まさか当たるとは思わなかった」

「べ、べべべっ。別にっ、大丈夫ですからっ…!」


 顔を真っ赤にしながら、言われた通りに撮影してみるが、胸の鼓動が激しくてブレブレで綺麗に撮れなかった。


「わ、わりぃ。上手く撮れなかったみたいだ」


 照れを隠すようにフォークを手に取ってサラダに手をつけ始める。体が熱い。俺の知らない感情が多すぎやしないか?


「ふふふっ、奏詩くん可愛い」


 頬を赤くしながら、柚葉はクスクスと笑っている。俺は恥ずかしさを堪えながら食べ進める。


「早くしないとメインディッシュ来るぞ?」

「そうだった。じゃあ、いただきます」


 その後は特に何も起こらず、デザートまで堪能したのだった。

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