第5話-萌え出づる春に なりにけるかも-
「帰りのHRを始めるぞ。明日からはすぐに授業に入るから、覚悟しておけ」
入学式も終わり、帰りのHRが始まった。
「それじゃあ今日はこれで終わりだ。明日から授業が始まるから、教科書など持ってきておけよ。解散!」
先生の合図で教室が賑やかになり、時刻はちょうど正午を過ぎていた。既にグループが出来始めている中、俺はぼっちでも全く構わないと思っていた。しかし、七草さんのことが気になった。彼女がちゃんと友達を作れるのか、中学からの友達は同じクラスなのかと不安が脳内を駆け巡る。
「七草さんに声をかけなくていいのか?」
「五月蝿いな。かける言葉が出てこないんだよ。どうしたらいい?」
「お前もお前だが、あの子もあの子だよな。中学時代の友達が他のクラスだったりするのかな?」
七草さんの席の方に目を向けると、彼女はおどおどしながら話しかけようとしても勇気が出ず、机に突っ伏している様子だった。小動物のようで可愛らしいが、状況は悪い。
「今までどうやって生きてきたんだ? あれじゃコミュニケーションが取れなくて詰むぜ」
「啓太、なんか良い考え出せ」
「は、なんで俺が?」
「俺は無理だ。そういうのはやったことがない」
「はあ、お前な…。とりあえず、飯にでも誘ってこいよ。それでもわからなくなったら連絡寄越せ」
「それもそうだな、まずは飯を食ってからだ」
椅子から立ち上がり、七草さんの席へ向かう。七草さんは携帯を触って親と連絡を取っていたようだ。
「七草さん、これから予定ってある?」
「ひゃいっ! あっ、えっと。あ、暁月くん。ど、どうしたんですか?」
声をかけただけで驚きすぎでは? それに、敬語マシマシキャラなのか清楚キャラなのか、どっちにするべきか迷っているようだ。そう思いながら再び口を開く。
「これから飯を食べに行くんだけど、一緒に来ない?」
「へっ、えっと。ちょっと待ってくださいね! えっと…」
挙動不審になりながら机からメモ帳を取り出し、じっくりと読み始めた。何をしているのだろうか。
「えっと、あった。ふむふむ、なるほど。はいっ、お待たせしました! 予定大丈夫です、一緒に行けます!」
「そっか、じゃあ行こうか」
「はいっ! あっ、うんっ!」
結局、何の時間だったのかよくわからなかったが、今日の予定の確認をしていたのだろう。まあ、良い。今日は高校生活最初の青春だ。とことん楽しんで七草さんと仲良くなるつもりだ。
「啓太、お前も来るか?」
後ろを振り向くと、すでに啓太はいなくなっていた。帰るのが早すぎだろうと驚いていると、準備を済ませた七草さんが肩をツンツンと突いてきた。
「赤橋さん、何か用事があったんでしょうか?」
「さあな。じゃあ、どこか食べに行こうか。何が食べたい?」
「私、暁月くんの好きなものを食べたいです…」
「俺の好きなものか。なんだろうな…」
「何か、急にあれが食べたい!って欲求が出てきませんか?」
「そうだな…パスタ、そうだパスタにしよう。どこかいい場所はあるかな?」
「パスタいいですね! 私も好きです!」
スマホを取り出し、虹ヶ丘駅前で調べてみる。七草さんも調べ始めたようだ。
「駅前に一つあるみたい。お洒落で値段も良い感じのところがあるらしい。ロゼ・セクエンツァっていう名前の店だ」
「私もそこを見ていました! じゃあ、そこに行ってみましょう!」
七草さんは飛び跳ねながら教室を出て行った。それほどまでにパスタが好きなのか。まあ、俺も好きなんだけど。
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