第4話-しづ心なく 花の散るらむ-

「まさか、一緒のクラスになれるなんてね」

「本当、運命的だね」


 虹ヶ丘高校は中高一貫校で、虹ヶ丘中学とは反対の塔側にあるため、校舎も繋がっている。新高校生になった実感もなく、新鮮さが感じられなかった。食堂前を通り過ぎ、階段を登ろうとしたとき、ふと立ち止まった。身長差と歩幅の違いで、七草さんがちゃんと付いてきているか心配になったからだ。案の定、距離が開いてしまっていた。


「どうしました?」

「いや、ちゃんと着いてきてるかなって」

「向かう先が同じだから、大丈夫ですよ?」


 七草さんは再びキョトンとした表情で答えた。相変わらずその仕草が可愛い。彼女が何を学んでそうなったのか気になるところだ。


「なら問題ないか」


 気を取り直して階段を登り始め、教室へ向かって歩き始める。今度は時々背後を振り返り、着いてきているか確認しよう。吹き抜けの中庭が見える三階の階段を登りながら、つい気になったことを聞いてしまった。


「なあ、七草、本当に嘘告白で告白してきたのか?」


 一ヶ月前のことを振り返って、もし嘘告白なら諦めるはずだと考えた。それが実際にはそうではなかったので、俺に気があったのだろうか。教室の扉を開けながら思考を加速させる。


「あー、いや、うん、忘れちゃいました」

「え、嘘だろ? 告白の動機を忘れたのか?」

「忘れちゃったんですー」

「本当に?」

「ふん、暁月さん、いじわる」


 どうやら拗ねてしまったようで、そのまま七草さんは教卓の方へ向かっていってしまった。秋と乙女心と猫は分からないと言うが、この状況で正しい選択肢を選べる人がいたら、それは多分天才だろう。


「それを言うなら、女心と秋の空だぞ」

「なっ、啓太! いつからいたんだ?」

「ずっといたぞ? 久しぶりだな、奏詩! それにしても、お前、彼女でもできたのか?」


 久しぶりと言うには三週間ぶりだが、それほどの時間でもない。


「友達だよ。それに、俺の声が漏れてたのか? そうだったらマジで恥ずいんだけど」

「いや、多分お前がそう考えているんだろうなと思ってただけだ。そうだ、お前の席はここだぞ?」


 啓太は普段おちゃらけているが、人の考えていることを雰囲気で感じ取ることができる。小学生の頃からそんな変わり者で、他のクラスメイトに避けられていたような人生を送っている。『バカと天才は紙一重』という言葉がぴったりな気がする。余計なことさえ言わなければ、頼りになるやつなんだけどな。


「お前は小学生の頃から人と関わりすぎだったな。もっと人と接しないと後悔するぞ。彼女の本質をしっかり見極めろよ」

「わかってるよ。ほら、散った散った」

「いや、俺の席、お前の後ろなんだけどな」

「俺、赤橋啓太ってんだ。よろしくな、未来の彼女さん」

「は、はい! えっと、よろしくお願いします、赤橋さん。私は七草柚葉です。よろしくお願いします! あ、本チャイム鳴りますね。私、戻りますから」


 目の前で二人は握手を交わし、それぞれの席へ戻っていく。俺の席は廊下側の後ろから二番目で、一番後ろが啓太の席だ。七草さんは真ん中列の一番後ろの席で、地味に遠くて話に行きづらい。すると、本チャイムが鳴り響くと同時に見覚えのある人物が教室に入ってきた。


「私は担任の山田花梨だ。よろしく、現在を生きる少年少女。それじゃあ、体育館に移動するぞ。入学式ってやつだ」

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