第3話-恋せよとても 生むまれざりけり-

 高校初日。特に中学時代と変わりない日常が続く中、俺はつまらない毎日を淡々と生きていくつもりだった。校門を通り過ぎると、どこかで何かを忘れている感覚が引っかかっていた。


「久しぶりですね、暁月さん。少し筋肉がつきましたか?」


 突然背後から声をかけられ、振り向くと見知らぬ可愛らしい少女が立っていた。俺には女の子の知り合いはいないはずだが、誰なのだろうか。


「えっと、君は?」

「忘れちゃいました? 七草柚葉です。改めてよろしくです」


 少女はにっこりと笑いながら、お辞儀をした。そういえば、中学最後の日に告白してきた女の子だ。ボブヘアの茶髪に黄玉の瞳、ピンクのリボンをつけた彼女が、こんなに変わるとは思わなかった。あれから一ヶ月、彼女は本当に努力してきたのだろう。無性に一か月前の自分を殴りたくなった。心臓が激しく鼓動し、手のひらに汗をかいている。初めて感じるこの感覚が、恋だとは思えなかった。


「お、おう。七草さん、だっけ?覚えてるさ」


 嘘だとすぐにバレそうな反応を隠し、考えを巡らせる。


「良かった!私、この一ヶ月頑張ったんですから!」


 彼女は得意げに笑いながら俺を見ている。今どきの女子ってこんなに可愛いのかと思いながら、状況を整理しようとスマホで調べてみる。恋愛とは、男女が互いに恋慕うこと。うむ、よくわからない。


「早くクラス確認しないと、混雑して見えなくなりますよ? 暁月さーん? 暁月くーん? うううむ?」


 深く考えているうちに、七草さんが何度も呼びかけてきた。一度思考を放棄してため息をつく。


「はぁぁぁ……俺の負けだな」

「ん? ごめんなさい、何か言いました?」


 理性的な考えでは答えが出なかったため、本能に任せて言ってみると、それがすんなりと答えになることを実感した。これが恋なのか。人間は動物であり、本能に従って恋愛をし、子孫を残すために生きているのだと理解した。


「俺の負けだ。今日から俺は君の恋人になってしまうらしい」


 完全に敗北を認めながらも、七草さんのことをまだよく知らないから、まずは友達から始めたいと強引に理由をつける。愛の女神アフロディーテもこんな出会いを許してくれるだろうと、自分に納得させる。


「ふふっ、私の勝ちですね」

「ああ、条件通りにね。でも恋人を名乗るには俺は君を知らなすぎるから、まずは友達から始めたいんだけど」

「じゃあ、周りには友達として紹介しますね!」

「そうだな、これからよろしく。七草さん」

「はい! よろしくお願いします!」


満開の桜の下、暁月奏詩にも春が訪れたのだった。来てほしくはなかったのだが。

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