第2話-わが身世にふる ながめせしまに-
翌日の放課後、屋上に呼び出された俺は、少し不安を抱えながら階段を上った。どうせまた「黒歴史」に関する厄介ごとだろうと思っていたが、現れたのは昨日俺に声をかけてきた、目立たない女の子だった。
「わ、わたし……貴方のことが、好きです。つ、付き合って、ください」
屋上の隅で、彼女が一歩下がっている。髪の色は日陰と逆光でわかりにくいが、多分茶髪。目の色も前髪で隠れていて判別がつかない。
「えっと、君の名前を教えてもらえるかな?」
彼女は小さく息をついてから、話し始めた。
「そうですよね、ほぼ初対面ですもんね。私は元三年三組の七草柚葉です。よろしくお願いします」
「隣のクラスの人がなんで俺に告白しに来たの?あまり接点なかったと思うけど」
「あ、あの、その……」
彼女が露骨に焦り始めたのを見て、俺は予感がした。どうやら、俺はよくある『嘘告白』つまり嘘の告白をされる罰ゲームのターゲットになってしまったらしい。
「もしかして、嘘告?」
「えっと、その……」
どうやら図星だったようだ。彼女が言い訳をするために時間が必要そうだ。しばらく考えた末、俺は直球で行くことに決めた。
「ごめん、俺は恋愛には興味がないんだ」
「そ、そうですよね。ごめんなさい」
彼女は顔を背け、鼻をすする音が聞こえてきた。泣いているふりをしているのだろう。嘘告なのにそこまで演技する必要があるのかと思いつつ、次の行動を待っていると、彼女は意外な言葉を口にした。
「もし、高校で俺のことを惚れさせることができたら、付き合ってくれますか?」
「え、えっと、高校で?」
「虹ヶ丘は中高一貫だから、もしかして他の学校に行くんですか?」
「いや、高校もここだよ」
「じゃあ決まりですね。春休みが終わるまでに全力で可愛くなってみせますから!」
「ちょっと待ってくれ」
「高校を楽しみにしててくださいね、暁月奏詩さん」
彼女は言い終わると、速攻でその場を去ってしまった。後ろ姿を見送りながら、俺は頭をフル回転させた。告白されたのは初めてのことだし、名前を教えた覚えもないのに。気持ちが変わることはないだろうと断ったはずなのに、彼女は一方的に『春休みまでに変わる』と押し付けてきた。
「いや、一ヶ月じゃ無理だろう。俺だってそんな変わり方ができるなら、こんな苦しい思いはしない」
思い出しただけで吐き気がしてくる。精神的に支えが必要だと思いながら、俺はため息をつく。鞄を拾い上げ、イヤホンを取り出して音楽をセットする。今日のプレイリストには、MMORPGゲームのアイドル藤野薫子の新曲が入っている。明るいポップなメロディーが気持ちをリフレッシュしてくれるはずだ。
「はあ、気が重いな」
ポップな音楽を流しながら、頭を掻きつつ、俺は校門を抜けて家路に着いた。
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