第3話 犯しな魔法
あれから、僕たちは鈴の家へと招待されていた。相変わらず、結構広めの一軒家。二階には部屋が幾つかあって、使ってない部屋だって存在している。そんな家に、鈴は一人で暮らしていた。
「一人だけなのパコか? 他の家族はホテルにでも行っているパコ?」
「お母さんとお父さん、海外で働いているから」
「なるほど、スパムにaを加工する仕事に従事されているパコね」
「別にお肉は作ってない、車関連のお仕事」
「ドラゴンカーセッ◯ス関連パコか!?」
「カーディーラー」
相変わらず、エロ犬はずっと意味不明な言語で喋っている。でも、それに追随している鈴は、もしかすると狂った異世界との架け橋になれるかもしれない存在だった。そんなのにならなくて良いから。
「入って」
久しぶりに、鈴の部屋に入る。整頓されていて、落ち着いている部屋。ただ、本棚にはライトノベルやアニメのブルーレイが、これでもかと詰められている。鈴だけじゃなくて、鈴の家族全員がそうなので、多分血の成せる技なのだと思う。
「ふぅ、久しぶりに嫁以外の女子部屋に入ったパコ。生臭くないから、きっとオナニーは週一回くらいパコか」
「何でお前、生きてるの?」
「精子を解き放つためパコ」
「テクノブレイクすればいいのに」
「君の上で腹上死して良いパコか!?」
「殺すよ?」
その場で高速で腰をヘコつかせるエロ犬は、やっぱりこの世に存在してはいけない生物だ。鈴の部屋でそんなことしているのが、何よりも最悪過ぎる。
「鈴、キモくない?」
「キモい」
「捨てない?」
「捨てない」
「なんで?」
「生類憐れみの令」
江戸時代にエロ犬が居たら、徳川綱吉でも斬れと命じると思う。それくらいに許されない生き物だけど、鈴はどうしてだか許容していた。……こいつが居なきゃ、世界を救えないのは分かってるんだけどね。それを差し引いても、反射的に滅びて欲しくなる。
「ふぅ、良い感じに腰が振れたパコ」
「気が触れてるの間違いでしょ」
「パコのチンに触れても良いパコよ!」
「もぐよ?」
毎秒キモい。期待するような目で見てくることが、何よりキモかった。
「それで、鈴はパコ達をどうして招待してくれたパコか? 3Pがしたいなら、残念なことにパコの分体性器は飾り物だパコ。愛すべき11cmの性器は、本体に格納されたまま嫁の膣内に入るしか無いパコ」
「お嫁さん居るんだ」
「パコに合わせたロリ体型の、パコのチ◯コに出会うために生まれてきたマ◯コだパコ!」
「お前の奥さんが可哀想で仕方ないよ」
「嫁もパコのことチ◯コって呼んでいる、幸せな家庭パコ。将来の夢は、娘たちの貝合せを撮影するパコね」
「もう終わりだよ、その家庭」
そう言えば、こいつの奥さんってTS魔法少女だったって聞いたけど……。僕も一歩間違えれば、そんな憂き目に合うのかもしれない。考えると、中々に悍ましい出来事過ぎる。
「鈴、僕は男となんて絶対に結婚しないから」
「うん、そうして。……そうじゃないと、困る」
鈴も、幼馴染が急に女と化してビックリしてると思う、無表情だけど。だから、完全に女の子だと思われる前に、何とか戻らないといけない。そのために必要なこと、取り敢えずはそれを整頓する必要があった。
「まず、何をするのかを決めて、その下に何が出来るのかを書いていく」
鈴が取り出してきたノートを二人(と畜生が一匹)で囲んで、現状の把握をする。正直、マトモに考えると頭がおかしくなりそうだったから、こうして整理してくれると凄く助かる。
「一つ目、悪い人たちをやっつけること」
「NTR推進委員会だパコ」
「NTR推進委員会をやっつける」
バカすぎる訂正を律儀に行い、ノートに酷い字面が並んだ。バカなんじゃないだろうか。
「そもそも、今この人たちってどこで何をして活動してるの? 早く駆逐して、日常に戻りたいんだけど」
「恐らくはマスを掻いてる最中だパコ」
「は?」
NTR推進委員会の下に箇条書きで、マスを掻いてると書き足される。正気なの?
「な、なんで?」
「催淫魔法"クッ、なぜ私のアソコが疼いているっ。……ま、まさか、先程の電波は発淫性のモノだったのか!?"のために、パトスを溜めている最中な筈だからパコ」
「余すところなくカスみたいな名前すぎる。
……それで、パトスって?」
「魔力の昂りのことパコ」
また一つ、最悪なことを聞いてしまった。異世界では、オナニーで魔力が高まるらしい。魔力ってもしかして性欲の事なの? アホなの?
「……こんなこと聞きたくないんだけど、その、魔力を昂らせるのが目的なら、出しちゃうとスッキリして昂らないんじゃないかな?」
「よく理解しているパコね、魔法使いの才能があるパコ」
「不名誉すぎる」
「そういう訳で、上級の魔法使いたちは自らに射精管理を課すパコ」
「は?」
なんて?
「絶頂しないことで魔力を内側に溜め込み、解放する時に爆発的な出力を得るんだパコ」
意味の分かりたくない言葉に、頭が情報を拒否する。けど、鈴が箇条書きで"魔力→性欲"、"絶頂=出力低下"、"射精管理→魔力増大"と書いてるのを見て、もうダメだった。こんな魔法、絶対におかしいよ……。
「……それで、その人達はいつ現れるの?」
「射精管理に成功した時パコ」
「失敗もするんだ」
「人間パコからね」
「……なんでこっち見てるの、鈴」
「何でもない」
どうしてだか、鈴は僕の方に……正確には股下の方に視線を向けていた。なるほど、と呟かれた一言がそこはかとなく嫌だ。
そもそも射精管理なんて意味不明なこと、僕はしたことないし!
「と、とにかく、そいつらの自慰行為はいつ終わるの!」
妙な照れ隠しで、狂ったことを何とか口にできた。鈴の前で、こんなこと言いたくなんてないのに、本当にふざけてる。こっちの世界に来た奴ら全員、毎日自分の家で一人大人しくでそういうことをしてれば良いのに。
「分からないパコ」
「なんで?」
「NTR推進委員会の魔法使い達は、ポリネシアンオナニーの流派だからパコ」
「は?」
そしてふざけたことに、恥ずかしいことを口にして聞けたのが、更に理解し難い単語。ポリネシアって、あの太平洋の島々のこと?
「ポリネシアンオナニーは、数日に渡って射精を我慢するプレイだパコ」
「えぇ……何でポリネシアの名前がついてるの、そんなのに」
「かつて、聖キガクルーウに異世界転移して来たエロマンガ島の出身者が、こうするのが一番気持ちいいと広めたのが始まりパコ」
「そんな名前の島、あるわけないでしょ!」
「あるよ」
「え?」
あると言ったのは、エロ犬じゃなくて鈴だった。鈴がこれ、とスマホの画面を突き出してくる。そこには、確かにエロマンガ島のWikipediaが存在していた。……そんなバカな!?
「う、嘘でしょ?」
「本当」
「流石はおち◯ちんランドパコね」
エロ犬に最悪すぎるレッテルを貼られ、絶句する。怖くなって、衝動的に"ちん◯ん 地名"でググると、キンタマーニやらレマン湖、フルチーンなどといった地名がヒットする。世界は、もしかすると僕が思っているより狂っているのかもしれなかった。
「それで、そのオナニーは、ずっと我慢してるだけなの?」
「そうパコ。我慢に我慢を重ねて、五日目に訪れる絶頂期に全てを解放するらしいパコ」
「失敗するのはどうして?」
「段階的にチ◯コの鋭敏さが増すパコが、三日目くらいには蚊にチ◯コを吸われるだけで、血の代わりに精液を噴き出す状態になっているらしいパコ」
「大変」
そう言って、鈴はまた僕の股間を見つめた。無表情なのに、何故か痛ましい雰囲気を感じる。いつも頑張ってたんだねって、その目が語りかけて来ていた。そんな訳がないんだよ!
「違うからね、鈴!」
「何が?」
「僕は早くないから!」
「そうなの?」
「少なくとも、蚊に吸われて出すわけないよ!!」
反射的に、プライドを守ろうとして僕は言い訳をしていた。今は女の子になってるから証明のしようがないけど、少なくともそんなに早かった覚えはない。それに、鈴は"そっか"と呟いて。
「──こころって、オナニーするんだ」
「…………あっ」
鈴の言葉の意味を理解した瞬間、僕はその場に崩れ落ちていた。そのまま、頭を隠して顔を見られない様にする。変な動悸を感じて、全身が羞恥で染められていく感じがしたから。
バカ、僕のバカ! 鈴になんて話をしてるんだ、バカすぎる!!
「何してるパコ? 頭隠して尻隠さず、プリーズファックミーってことパコか?」
「しね!」
エロ犬に蹴りを入れて、反射的に鈴のベットに潜り込んだ。穴に潜りたい気持ちで、隠れられそうな場所がここしかなかったから。
「こころ、オナニーするのは恥ずかしいことじゃないよ?」
「鈴、さっきから、その、っ、おなにー、とかっ、言っちゃダメだよ!」
「恥ずかしいことじゃないよ、普通のこと」
「そうパコ、アナニーよりよっぽど健全パコ」
「エロ犬は黙ってて!」
鈴はもしかすると、凄い下ネタに耐性のある女の子だったのだろうか。鈴の前で下ネタなんて言ったこと無かったから、始めて知った事実だ。僕も下ネタ、言えるようになった方が良いのかな……。
「大丈夫、みんなしてるってネットとかに書いてある」
「してたとしても、鈴に知られるのが恥ずかしいの!」
「こころは、私とエッチなお話したくない?」
少し寂しそうな口ぶりで、鈴はそんなことを口にする。もしかして、女の子同士でも平然とこんな感じで話してて、僕が変に反応しすぎてるだけ、なのかな。
「そんなの……イヤじゃないけど、困る」
けど、やっぱりあけすけにそういう話はし辛かった。苦手って言うのもあるけど、他の誰より鈴に僕のそういうことを知られたくはなかったから。
「こころ、そういう時は”す、鈴こそオナニーするの? わ、分かった、僕でしてるんでしょ、エッチ!”って言うのがエロコメのお約束だパコよ」
「なんで女の子視点で僕が喋ってるの、僕は男子だよ!」
「今のこころは女の子パコ」
「お陰様でね、アホ!」
そして相変わらず、エロ犬は余計なことしか喋らない。早く去勢されればいいのに。
「そういう訳で、NTR推進委員会の決起時期は奴らの勃起次第パコ」
「壊死すればいいのにね」
このまま何も起こらなきゃ、本当に幸せなのに。バカみたいな変態テロリストの勃起に怯える毎日とか、本当にやってられなさすぎる。
「それまで、こころ達はどうするの?」
言われて、考える。あいつらの射精管理を馬鹿みたいに待ち続けるのなんて、本当にバカバカしくてやってられないし。
「拠点とか、そういう場所を襲撃できたりとかしないかな?」
「この街が聖キガクルーウにアクセスできる座標パコから、恐らくはこの街の周辺に居ると思うパコ」
「じゃあ!」
「でも、やめておいた方が良いパコよ」
「なんで?」
「言った筈パコ、奴らはポリネシアンオナニーで性欲を極限まで高ぶらせている最中パコと。……この意味、分かるパコか?」
要するに、裸で気が狂ってる奴らなんだから、隙だらけだし襲撃しやすそうだと思う。けど、エロ犬の口ぶり的に、それ以外に何かありそうだけど……。
「──エッチな気持ちが昂ぶりすぎて、こころを襲っちゃうってこと?」
「流石は鈴、その通りだパコ」
「え?」
サラリと、悍ましいことが肯定された気がする。思考が停止し、絶句してしまう。その間にも、鈴とエロ犬は会話を続けている。
「元々、バベルの党の法案を支持しているのは、30歳になっても童貞を卒業できなかった強力な魔法使いたちパコ。NTR推進法案さえ通れば、自分達も卒業できると考えているんだパコ」
「恋人、作ればいいのに」
「30歳まで理想を持ってしまったら、後は魔法使いとして大成するしか無くなるパコからね。童貞じゃなくなると魔力が弱まるパコし、下手に妥協すれば魔法使いとしての地位も手放すことになるパコから」
「それだと、いつまでも童貞のままだよ?」
「だから世界の方を作り変えて、生きづらい社会をイキ狂い社会に変えようとしてるんだパコ。魔法使いとして社会貢献しすぎて、プライドは人一倍高くなってるパコからね。妥協して結婚するより、誰とでもパコ放題プランの社会を選ぼうとしているんだパコ」
「……悲しい人達」
「そうパコね、パコの様に愛液溢れる家庭を築けなかった童貞達の末路パコ」
二人の会話が、あんまり頭に入ってこない。
僕、襲われる? 30歳を超えた童貞の群衆に? え? え?
「き、聞いてないんだけど……」
「何がパコ?」
「僕が、エッチな目に遭うって事……」
「それは襲撃プラン想定ならパコね。熟練の魔法使い相手に、自分が魔法戦で勝てる自信があるなら、やってみても良いと思うパコ」
無論、そんな自信はないし、そもそもどうやったら魔法を使えるかということすら理解していない。1ミリたりとも、勝てる要素を見出せそうになかった。
「や、ヤダ! エッチな事なんてされたくないよ!」
「だったら、襲撃案は無しパコね」
震えながら、エロ犬の言葉に何度も頷く。僕は童貞を捨てる前に処女を捨てる羽目になるなんて、絶対に嫌だ! そんな事になったら一生引きずるし、そんな思いと一緒に生涯を過ごすなんてあり得ない。
想像するだけで震えてしまう、怖すぎる。そんな恐怖に震える僕を、鈴は抱きしめてくれた。……温かい、安心する鈴って感じの匂いがする。
「大丈夫だから、落ち着いてこころ」
「……鈴、ごめんね」
「うん、今のこころは女の子で柔らかいから、役得」
相変わらず無表情なのに、目だけはしっかりと優しいのが分かる。頭を撫でられて、力が抜ける。そのまま、鈴に身体をあずけると、ポンポンとされて感じていた恐怖が大分和らいだ。何か、久しぶりに鈴にベッタリした気がする。今日は懐かしいことが、目白押しだ。
「ねぇ、パコリイヌ。タイミング次第で、こころがその人達に勝てる場面があるってことで良い?」
「鈴は賢いパコね、毎日オナニーして賢者モードになってるのパコか?」
「実はまだ未経験」
「それは良くないパコね。痴育教育の一環として、まずはこころ辺りを妄想で穢すところから始めると良いパコ」
「なるほど」
僕を甘やかしてくれながら、鈴は意味不明な会話をエロ犬と繰り広げている。もしかすると、IQが高くなるとカスみたいな情報も処理できるのかもしれない。鈴は大体のことに聞く耳持ってるしね。
「それで、その方法は?」
「奴らが発動しようとしている、"クッ、なぜ私のアソコが疼いているっ。……ま、まさか、先程の電波は発淫性のモノだったのか!?"は大規模な魔法パコ。複数人の30歳童貞が協力しなければ発動しないパコし、当然その発動しているタイミングは壁尻に嵌った女の子くらいガバガバガバナンスなお◯んこ状態になるパコ」
「そこなら、こころでも勝てる?」
「とっておきの魔法があるパコからね。こころが使えば、きっと勝てるパコ」
ただ、会話の内容的に、キチンと勝機はあるみたい。その事実に、少し胸を撫で下ろせた。さっきの話を聞いて、まだ少し怖いけど、でも絶対に戦わないといけないから。
「僕、頑張るよ。その魔法、使えるようになると勝てるなら、きっと使いこなせるようになる。僕の貞操のためにも、絶対ね。だからエロ犬、その魔法を教えて」
「いい覚悟パコね。けど、人にものを頼むのなら、名前くらいはキチンと呼んで欲しいパコ」
「……パコリイヌ先生、どうかその魔法を教えてくれないでしょうか?」
嫌々その名前を口にすると、パーコパコパコという笑い声をこいつは漏らした。最悪すぎる高笑い、本当に終わっていた。でも、満足そうにしているから、恥を忍んで正解だったかもしれない。
「そこまで言うなら仕方ないパコね。奴らに勝てる魔法”ハイレグレオタードを見ていると性癖がドスケベ魔法少女になっちまうッ! クソ、もう我慢できねぇ、
──勝機以前に正気がなかった、バカがよぉ。
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