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金岡は白のスーツに身を包み、可愛らしいチワワを抱えながら近づいて来る。周りを固める金岡の部下たちは彼とは対照的に、ぴっしりと黒いスーツを着て、仏頂面を崩さない。それが金岡の威厳を一層強く見せていた。
金岡の引きつれていた部下は3人。一度トラブルがあったとはいえ、下積み時代の世話をしていた俳優相手にはそれくらいで十分だという判断だろう。
「その節は申し訳ありません。あの時は何と言いますか、気の迷いというか……」
木根は少しも顔をしかめずに、清々しいほど素直に頭を下げた。横で見ていた根津はその俳優としての力量に息を飲んだ。根津はといえば、ようやくここまで来たという達成感と、油断できないという緊張感で足を震わせていた。
いいんだ、と繰り返しながら金岡は神妙な面持ちの俳優の肩を叩いた。
「若いときは気も迷うさ。最後にどうするかが肝心なんだよ」
「ありがとうございます」
今にも泣きそうな風を装いながら、木根が震える声を出して頭を再び下げた。金岡に抱かれたチワワは空気を読まずにキョロキョロとしながらしきりに鼻を動かしている。金岡も満足したのか、興味は木根の隣に移った。
「それでこちらのお二人は?」
口ではそう言いながらも、金岡の視線は住井に集中していた。スケベ野郎が、と腹の中で毒づきながらも、根津は胸を撫でおろした。一昨日首に爆弾を巻きつけた2人だとは気づかれていないらしい。
住井はタイトなジーンズとタイトなシャツを白と黒のモノトーンで固め、高いヒールを履いていた。首には爆弾を隠すためにスカーフを巻いている。閉店間際の衣料品コーナーで集めたあり合わせのコーディネートだったが、木根のセンスもあって都会の夜にいてもおかしくない格好になっていた。それに白い光を強烈に当てるというのはモデルを撮影する時のテクニックにもある。
「事務所の後輩のイズミっていうんです。モデルをしています、この間スカウトされたばかりなんですけどね」
木根はディーラーのように両手を擦り合わせながら、平然と出まかせを並べていく。金岡は疑うこともなく、車を見定めるように住井の全身に視線を這わせた。
「今日は鉄砲を撃たせてくれるって、本当ですか?」
住井は間延びした声で、どうにかしなを作って確かめた。
「いくらでも撃ってよ。ここにたくさん集めてあるからね」
金岡が腕を伸ばして倉庫を指した。チワワが金岡と一緒に倉庫の方を向いて、キャンキャンと吼え始めた。小型犬にしても落ち着きのない犬だった。ドーベルマンのような怖さは感じないものの、根津はそのチワワの様子を見て嫌な予感を抱いていた。
「それでこちらが……」
木根が根津の紹介に移ろうとしたところで、チワワが金岡の腕から抜け出した。フワリと着地したチワワはそのまま一目散に根津の足元に駆け寄った。そして親の仇かのようにギャンギャンと吼え散らしながら噛みつこうと飛び跳ねていた。
前方で緊張が走るのを根津は感じた。金岡の部下たちが根津に注意を向けていた。その内の2人はすぐに飛び出せるように構えていた。金岡も根津を怪訝そうに睨みつけている。
いつの間にか木根も言葉に詰まっていた。根津は木根の目が動揺して震えていたのに気付いた。背筋を冷たいものが這う感触を覚えた。
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