第14話 定めらた運命
私は目の前の少女が何を言っているのかがわからないというより理解したくない。いきなり人に向かって奴隷になってという人の心情なんて本人にしか理解できないものだ。外の私には当然理解できないのは仕方がないことだが、だとしても言っていることがおかしいということぐらいは理解できる。
「別に言わなくてもあなたがどんなことを考えてるのかわかってる…」
少女は私に冷たい視線を向けてくる。私が最も嫌いとする他人から与えられる価値観。とても嫌で嫌いで泣きそうで、私はより一層言葉が出てこなくなる。
「そういえば名乗ってなかった…私の名前は二股狂三」
二股狂三、彼女は声色を全くもって変えずにそう言う。落ち着いている様子が逆に不気味さを増している。彼女はキョトンとして表情で首を傾げている。
そんな不思議そうな表情で私を見ないでよ。私が一番困惑しているのに。会って開幕早々に奴隷になってていう方がおかしい、なのにどうしてこんなに胸がざわめいているの。
胸が熱く、身体が火照っている。先程のてんかんのような症状が嘘みたいになくなっている。だが、そんなことに気づくほど余裕なんてものはとうになく、私は火照っているこの身体を落ち着かせるのに精一杯だった。
「つらそう…?やっぱり、奴隷になりたそう…」
「な、なのちゃんたすけて」
二股狂三は私の手を両手で握ってくる。きっとそれに深い意味なんてないだろうが、このままでは彼女の思う壺だと直感がそう言っている。私はなのちゃんの名前を呼び助けを求めるが、見てみると何故かなのちゃんは消えていた。
私は彼女の方に視線を戻すと、舌なめずりをしながら微笑みこちらを凝視していた。微かに熱を帯びている彼女の肌は紅く、妖艶さが露わになっている。なのに、彼女の瞳は相変わらず冷たいまま。
私は逃げようとするが身体が動かない、言うことを聞かない。まるで私の身体じゃないような感覚、どこか既視感を感じ得ずにはいられない。以前にもこのような状況があったかのような不自然な違和感と既視感。
「余計なこと考える必要なんてない。ただ私に身を委ねればいいだけ」
彼女の身体がより一層私の身体に密着する。私より細くて小さいはずなのに柔らかさが身体に伝わってくる。
柔らかい彼女の身体は氷のように冷たく私の火照っている身体が冷却されていく。熱暴走していた思考までが冷却されて、私の思考がまともに働くようになってきたところで彼女は私の唇を奪う。
深い口付けではなく重ねるだけの普通なもの。舌が入ってくると身構えていた私はどこか物足りなさを感じてしまう。私は彼女の肩を押すが、全くといっていいほど微動だにしない。そんな抵抗に気づいた彼女は唇を離し、私を押し倒す。
「なんで物足りなさそうな顔してるの?」
「べ、べつにそんな顔してない…!」
「そう?関係ないけど」
彼女の顔が再び近づいている。このままじゃ永遠とキスをする羽目になってしまう。逃げないと、逃げないといけないってわかってる。わかってて理解しているはずなのに逃げ出せない自分がいる。
こんな甘さも愛もない一方的にされるがままの状況、本当は嫌で嫌で怖くて仕方がないはずなのに心の奥底のどこかで期待している。キスなのか、はたまたその先の行為なのか。私は一体何に期待しているの。
「やっぱりやめた。期待してる人にやったって面白くない」
「……え?」
彼女の顔がどんどん離れていく。このまま溶かされてダメにされてしまうと思っていたのにこの仕打ちは無責任極まりない。そのうえ、彼女は表情を何一つとして変えていない。冷たくて冷酷で、そんな彼女を私は不快感と不愉快さで睨みつけてしまう。意味がないことだとわかっているのに本能が私の思考を全て無視してやってしまう。
だけど彼女は睨まれているのに気にしていない、そう思っていたのが間違いだった。
いつの間にか彼女は第一ボタンとリボンを外し私の上に跨っていた。またしても状況に追いつけない。逃げるという考えが生まれる前にはもう手首を床に押さえつけられており、行動しようとした頃には為す術が全うもってなくなっていた。
「あなたが悪い。だから、これからすることは私は悪くないから」
息を荒くし、どこか様子がおかしい彼女は表情を熱で歪ませている。あの冷たさ、冷酷さが完全に雪解けの如くなくなっていた。どうしようもなさそうで感情が別の感情に侵食されて暴走しているみたいで、ついあの時の彼女らの顔が浮かんでしまう。記憶にはないのに。
私だってどうしたらがいいのかわからない。ここから助かる方法があるならとっくに試してる。だけど、そんな助かる術なんてなくて状況が完全に悪化してしまっている。
誰がどう見ても身動きが完全に取れないのは明白。私が助かる方法なんてものは最初からなかった。だって
私に囁く誘惑のなのちゃん 宮乃なの @yumanini
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