連鎖の夢
第12話 不穏な始まり
あの日の出来事からどれくらい経ったのだろうか。それを知るすべは私には何一つとしてない。すべてが幻かの如く映し出されるこのふわふわと下現実味のないこの世界では。
夜空の下、周りは崩れた学校の壁に散乱としている机と椅子が横たわっている。そんな中、一人の少女が椅子に座っている。少女は肩より少し長いセミロングに銀髪に近い白色の髪をしている。頬杖を立てながら外の方を見ている。
「ここはあなたの世界…夢、夢境とも言えるようなもの……」
「それらはすべて連鎖のもと成り立っている」
月明かりに照らされれいる彼女の髪の毛がとても綺麗に見える。ここがどこで目の前にいるのが誰なのかわからないが不思議なことに恐怖を一切感じない。それどころか気分が落ち着いている。
「私はその連鎖を求めてる傍観者…だから干渉なんてしないしするつもりもない…」
「だけどあなたが私の見たい連鎖を壊そうとするから…」
彼女は私の方に顔を向けてくる。目の下にくまが出来ていて色白く、到底この世の人間ではないように感じる。だけども、よく見れば彼女の顔には見覚えがある。指をイジイジしたり、甘さをそこら中に放っている彼女。
「な、なのちゃん……?」
顔がまるで瓜二つかの如く似ている。だけど、表情は全く違う。なのちゃんはいつも小悪魔的な表情を浮かべているが目の前にいる彼女はまったくの無表情。
「…そういえばあなたの連鎖の中にいましたね」
「私はただ……あなたにお話をしに来ました…というより呼びました」
「要件はただ一つ……彼女たちと付き合わないでほしい」
先程までと変わらない表情で私に言葉を放つ。その言葉が本当なのか嘘なのかは全くもって検討もつかない。私は困惑をすることしかできない。二人と付き合おうなどと一ミリも考えなかったし、そういう対象で見てはいなかったためだ。
目の前の彼女はキョトンと首を傾げて私の目を見つめてくる。私は目線をそらそうとするが何故かそらせない、というよりそらさてくれない。冷や汗が身体から出始め、手の震えが強くなる。
彼女はため息をつきながら立ち上がり、私に近づいてくる。反射的に後ろに下がろうとしたが何かにぶつかる。
「……答えなくてもわかるけど…答えて」
「ひっ……」
いつの間にか前にいた彼女は私の背後に回り込み、私の耳元で冷たい声で囁く。その声に温かさなんてものはなく、生きているのか怪しいぐらいに冷たい。
なのちゃんと容姿が似ているのに中身と雰囲気が全く違う。なのちゃんは甘さという愛を感じるが彼女からは何も感じない。なのちゃんが過剰なだけかもしないがそれを凌駕するくらい何もこもっていない。
「ねぇ…答えて」
「……付き合うつもりなんてないっ…」
「そう…それを彼女たちに言ってみたらどうなるんだろうね」
彼女はそう言うと不敵な笑みを浮かべ、私の前に立つ。その不適で不気味な笑顔がより人間ではない何かを強調している。そんな表情で凝視されている私は恐怖のあまりその場で崩れてしてまう。
「連鎖は実にいい…!フィユ様による連鎖への導き。あなたにもこの考えがわかるはず…だってあなた自身が連鎖を生んでいるのだから!」
「……?あ、あなたは一体何を言ってるのっ…!」
「連鎖はこの世の夢の理…そして言葉の源」
彼女の周りにはよくわからない文字が浮かび上がっている。私の世界には存在しない架空とも言える文字。やがて彼女が話している言葉が理解できなくなり、世界に亀裂が生じ始める。亀裂は鈍い音をあげながらこの夢を崩壊させていく。
私は何が起こっているのか把握できず座り込んでいると、突如として胸に違和感を感じる。刃が突き刺さっていた。
「これであなたは私から逃げれない……夜明けが楽しみ」
彼女はそう言いながら、私の身体に次々と刃物を突き刺していく。不思議と痛みは感じず、ふわふわとした何かを感じるだけだった。
やがて私の視界は暗くなっていき、視界から夢が消えた。
目を覚ませば見慣れたいつもの天井があった。私は安堵するが、とてつもないほどの悪寒と体の様々な箇所から倦怠感を感じる。倦怠感で辛いが何より胸に違和感を感じる。
私は服を捲り自分の胸元を確認すると、右胸に何かが刺さっていた。不思議なことに痛みや血は一切ないが、気持ち悪い。あの夢の少女のことを思い出して恐怖が上乗せされる。
「な、なにこれ……」
私は恐ろしながらも胸に刺さっている何かを触ってみようとしたところ、部屋のドアをノックする音が聞こえる。慌てて時間を見てみるが時間帯は四時で安心して胸をなでおろしていると、部屋のドアが開かれる。
「お姉ちゃん……?だ、だいじょうぶ?」
桃は心配そうな表情を浮かべながら恐れ恐れ私の方に近づいてくる。何がなんだかよくわからない。しかし、そんな桃の様子に私はどこか罪悪感を感じてしまう。
「えっとね…お姉ちゃんが苦しそうな声をあげてたから……心配になっちゃって」
「わ、わたし…そんな声だしてたの……心配かけてごめんね」
「べ、べつに…お姉ちゃんが大丈夫ならそれでいいし」
心配そうな表情を浮かべていたのに気づけばいつものツンツンとしていて恥ずかしがっている桃に戻っている。それがとても愛おしくて私はベッドから降りて前から桃を抱きしめる。
すると、照れながら慌てふためるが気にせず、私は桃の体温を身体で感じながら静かに雫をこぼす。桃は何も言わずに私の頭を撫でてくれる。それがとても心地よくて、先程までの恐怖と気持ち悪さが吹き飛んでしまった。
私に囁く誘惑のなのちゃん 宮乃なの @yumanini
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