第10話 不穏な二人
私はそのまま自分の部屋へとなのちゃんを連れて行く。彼女は私の手を握りながら後ろをついてくる。
「今日もましろちゃんはかわいいね♡」
「う、うん…♡」
口から勝手に甘い砂糖のような言葉が出てくる。まるで自分が自分じゃないかのような、そんな感じがしてくる。このままじゃまずいのはわかっているがわからない。思考が彼女の甘い毒で蝕まれ、身体の苦みが甘みでかき消されていくからだ。
自分が自分でない感覚に違和感を持つことさえできない。そんな状態の私は自分の部屋へと招き入れてしまう。
「ここがましろちゃんのお部屋……」
なのちゃんは私の部屋を見渡し吟味している。いつものような小悪魔的な表情ではなく、甘い表情だった。
そんな中、私は突如として何者かに腕を引っ張られて部屋の外に静かに連れ出される。
「……お姉ちゃん…あの人誰…」
桃の声が小さく私の頭に響き渡る。先程まで侵食されていた私の思考がもとに戻っていき、段々と今の状況がわかってくる。
「…っあ……えっと、友達…?」
「う、うそだよ!お姉ちゃんに友達なんていない!お姉ちゃんには私だけがいればいいの…お姉ちゃんを完璧に理解できるのはこの世で私だけ……なのに何で!」
「お、落ち着こ?…ね…?」
桃の豹変ぶりに私は宥める。しかし、全くもってこちらの話を聞いてくれない。そのため、負のオーラが出続けている。愛おしい桃のいつもと違った雰囲気に私は感慨深さを感じる。
そんな妹を見てると、後ろから気配を感じる。私は妹の手を握り、俯きながらも後ろを振り向く。足元だけ見てもわかるぐらい苦さがない甘さだけの、思考がドロドロに溶けるようなそんなオーラが見える。
顔を上げると、そこにはなのちゃんの姿があった。
「ましろちゃん♡その子だ〜れ…妹?」
「は、はひっ!い、いもうとです」
私は彼女の独特の雰囲気に押されて思わず妹の後ろに隠れて抱きついてしまう。姉としてあるまじき行為。だが、これだけは言いたい。
「えへへ…!落ち着く……」
私がそう言うと、なのちゃんはジト目で見つめてくる。どこか妹に嫉妬しているような表情にもなっている。いつもの余裕そうな表情じゃないため、どこか新鮮さを感じる。
桃は私をゴミを見るかのような目で見てくる。あの可愛らしくて愛おしい桃のこの表情。いつもの愛くるしい表情とは違い、今のこの表情は明らかに軽蔑しているかのような表情。いつもとの差があってとても興奮する。
「ちっ……お姉ちゃん、あとでお仕置きするから……」
「ひっ……!」
私はお仕置きという単語に思わずあの出来事が蘇ってきて顔を赤くしてしまう。桃はそんな私を見てより一層表情が悪くなる。流石にこのまま抱きついてたらいよいよ嫌われかねない。
私は抱きつくのをやめて距離をとる。すると、桃は私が離れたのと同時になのちゃんに向けて負のオーラをぶつけ始める。
「私のお姉ちゃんに何しようしたんですか…」
「別に〜?ただ愛でようとしただけだよ?」
「……泥棒猫…!」
桃は先程の軽蔑するかのような表情だが、なのちゃんの方は何故か笑顔だった。まるで今のこの状況を楽しんでいるかのようで。
「仲良くしよ?私たちはわかりあえる」
なのちゃんはそう言いながら桃に近づいていく。桃は表情何一つ変えずにただただ近寄ってくるなのちゃんを待ち構えていた。私は私でただただ静かに傍観することしか出来なかった。
やがてなのちゃんが桃に近づくと、なのちゃんは桃に耳打ちをする。最初は嫌悪感をあらわにしていたが、段々と負のオーラと共に嫌悪感が消えて仲間を見るかのような表情になっていた。
そんな桃となのちゃんは握手をし始める。私は何が起こっているのかがわからず首を傾げ、驚くことしか出来なかった。
しかし、驚いているのもつかの間、彼女たちが私の方に身体の向きを変える。彼女たちからは異様で独特な雰囲気が出ている。
「じゃあ、お姉ちゃん…お仕置きの時間だよ」
「桃…?それになのちゃんもど、どうしたのかな……こ、こわいよ」
「一瞬で終わるから安心して♡」
彼女たちは微笑みながら私の方に攻め寄ってくる。自分の身の危険を感じざるを得ないが少し期待してしまっている自分が心の中にいる。
お仕置きって一体何をされるのかな。桃が夜な夜な私の部屋でやってることかな、それともこの前のことかな。期待しちゃ駄目なのに、身の危険が迫っているのに、なのに何だろうこの胸のざわめきは。この身体の熱さは。
ハァハァと呼吸が浅くなり、熱さで視界がハッキリとせずぼやけてくる。そんな意識の中で映った彼女たちの瞳にはハートマークが見えた。
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