第6話 気まずい二人

 桃の声が暗闇の中で響き渡り光が差し込んでくる。やがて意識が覚醒し目が覚めると視界の先には桃がいた。


 「…ん……あっ、おはよう?」


 「お姉ちゃんとりあえず離して」


 私は桃に抱きついていたのに気づき抱きついていた腕を離す。しかし、桃はどこか寂しそうな表情を浮かべている。そのため、私は桃の頭を撫でる。


 「な、なんで頭撫でてっ!?」


 「遠慮しなくていいんだよ?」


 最初は嫌がる素振りを見せていたが少ししたら嫌がる素振りはなくなり自分から甘えてきた。


 相変わらず猫みたいで可愛い。下着盗むのはあれだけど。


 「あっ…そうだ。ねぇ、桃…百合ってなにか知ってたりする?」


 「っ…!?」


 私はあのことを思い出し、あたかも知らないかのように装って言葉の意味を尋ねる。桃は目に見てわかるように身体をビクッとさせている。視線を合わせようとすると視線をそらし合わせてくれない。


 桃の反応であの小説のような内容を好んでいるのだと確信してしまう。人の趣味はそれぞれだけど妹が姉妹ものの小説とかを読んでるとちょっと意識しちゃうというかなんというか。照れてしまいそうになる。


 「……わかってて聞いてる…?」


 「お姉ちゃんなんのことかわかんないな?…って、わっ!」


 私はわざとっぽく可愛こぶりながらそう言うと突如として桃に押し倒された。動こうとしても手首が押さえつけられており非力な私には到底無理だった。


 「ど、どうしたのかな…!?手首痛いなぁ?」


 「……ご、ごめん」


 私は何かされると思い覚悟を決めてはいたが桃に何かされる訳もなく私の手首を押さえていた桃の手が離れた。


 私は起き上がり桃の顔を見つめる。桃の頬は赤く染まっているがどこか気まずそうな表情をしている。


 「えっと…人の趣味にとやかく言うつもりはないよ…?そういうのに興味を抱く時期なんだろうし」


 「わ、私はお姉ちゃんが好きなだけ…!か、勘違いしないで!」


 桃が弁明するかのように放った言葉に私は少し驚きドキッとしてしまう。それと同時に桃は自分自身の言った言葉を理解したのか恥ずかしがっている。


 お互いがお互いに頬を赤らめてしまいこの二人の空間に沈黙が訪れる。


 桃に好きって言われたの初めてかもしれない。面と向かって言われると妹であっても少し恥ずかしいというか嬉しいというかなんというか。家族間での好きなのかもしれない。しかし、きっとそれはありえない。今までの行動、仕草、それに先程の行為。言い逃れはできないだろう。


 私は言葉を発しこの気まずい沈黙を破る。


 「ご、ご飯食べない?」


 「う、うん…!」


 私はお腹が空いたのを言い訳にリビングへと向かった。








 私は昨日の晩ごはんの残りのカレーが入った鍋を冷蔵庫から取り出し温め始める。桃は先程の出来事があったにも関わらず私を後ろから抱きしめてくる。


 私は先程のことを思い出してしまい変な気持ちに襲われる。自分がどういった感情でどういった気持ちなのかわからないが少なくとも悪い意味ではないと思う。


 数分の時が経ちカレーが十分に温まったため、皿に米を盛りカレーをよそう。桃はカレーをよそった皿をテーブルへと持っていく。私はその後を追い椅子に座る。


 「いただきます」


 「い、いただきます…」


 お互いに気まずい中私たちはご飯を食べ始める。いつもならお互いに食べさせ合ったりするが今日は気まずさがすごいので流石に断念する。そのため、昨日というか今朝までの微笑ましいような光景はない。


 普通に食べてるだけなのに美味しさが違う。今まで毎日食べさせ合いながら食事をしてきたからなのだろうか。桃の方を見てみても口に運ぶスプーンの進みが遅くよそったときと全く量が変わっていなかった。


 「……大丈夫…?」


 「……」


 桃の手が止まっており完全に静止している。表情もまるで燃え尽きているかのような表情だった。こう言ったらあれだけど見るに耐えなかった。


 そのため、私はカレーを乗せたスプーンを桃の口元に近づける。


 「桃…あ、あーん……」


 「……」


 桃は静止しているが私が近づけたスプーンに気がついた瞬間口を開けたので私は口の中に運ぶ。やがて咀嚼し始めると先程までの燃え尽きたかのような表情が嘘だったかのような幸せそうな表情を浮かべている。今朝までと同じあの可愛らしい桃の表情に私は笑みを浮かべる。


 「おいしい…!もっとちょうだい!」


 「はいどーぞ…!あーん」


 桃はまるで幼児退行したかのような甘ったるい言葉に私は微笑みながら更に口にカレーを運ぶ。


 その後も桃に食べさせながらもお互いに食べさせ合う今朝のような食事に戻った。








 私たちはご飯を食べ終え食器洗いをした後、久々に一緒に風呂に入った。桃の身体が昔と違い成長していたことに感慨深さを感じながらもお互いの身体を洗いあった。桃の手つきがいやらしかったがあまり嫌ではないので気にしないことにした。


 

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