第5話 気づけば夕方

 気づけば既に夕方になっており教室の中には私以外誰もいなかった。


 私は椅子から立ち上がり蹴伸びをする。いつの間にかなのちゃんがいなくなっているがきっと帰ってしまったのだろう。


 それにしても腰が痛い。前後の記憶が曖昧で何が起こったのかまるで覚えていない。私はここでなのちゃんと残って何をしていたのだろうか。わからない。しかし、きっとあまりいいことはしていないと思う。


 「うぅ…腰痛い…早く帰らないと」


 私は机の横にかかっているバッグを背負い早足で教室から出る。


 廊下を歩きながらスマホを取り出し電源をつける。電源がつくまで数秒の時間がかかるので私は鼻歌を綴りながら廊下を歩く。


 今日も私は頑張れたよね。人と話すのはあまり慣れないけどこのままの関係が続けばきっと桃以外の相手とも普通に話すことができるよね。まだ高校生活が始まってから二日。これから友達も増えるはず。








 あれから数十分の時が経ち私は改札口を通りホームで電車が来るのを待っている。あの後スマホを見てみると桃からメッセージが三十件近くきており少し恐怖を感じた。


 桃は私がいなくても生きていけるのかが心配で仕方がない。私はもしかしたらシスコンなのかもしれないが桃も桃でブラコンなのできっと問題はない。桃のブラコンは少し度が過ぎる気もするが気のせいだろう。夜な夜な私の部屋に入ってきて抱きついて匂いを嗅いでいるのも。きっとすべて私の決めつけで気のせいなのだろう。


 私はため息をつきながらスマホの画面に目を通す。画面には小説が映し出されていた。映し出されているのは前、桃が読んでいたのをちらりと見たときの作品である。あのとき桃は私が見ているのに気づいた瞬間慌てて隠してたな。どうして隠すのかよくわからないがやましいものではないと思う。


 私はそんな事を考えながら小説のあらすじを読んでいるとふと気になる単語が目に入る。


 「百合ってなんだろ…お花の名前かな?」


 私は疑問に思いながらもその百合という言葉を深く考えずに話を読み始める。


 「…っ!?ちょ、ちょっとまって…」


 開幕早々登場人物の姉が妹に告白されている。私は驚き先程の百合という言葉を調べてみる。


 「女同士の恋愛…?えっと…えっ……!?」


 「と、とりあえず家に帰ってから読もっかな…うん」


 わたしはスマホの電源を落とし考えることをやめた。まさか実の妹の桃が女

同士ものの作品を読んでるなんて。しかも姉妹同士の。私は一体どう接すればいいのかな。


 そうこうしているうちに電車がやってきたので私は電源を切ったスマホをしまい電車に乗車した。


 今の時間帯は朝に比べて人が少ないので席が空いている。私はすぐ近くの端に座りバッグを膝の上に持ってくる。


 ここから大体一時間かかるのでその間妹に対する接し方について考えようと思う。


 中学二年生にもなればそういうのに興味を抱いたりする時期なのかもしれないが私はそういうのに全くもって興味を抱かなかった。桃と同じくらいの年齢の時は常にボーっとしていたし、家にいる時は桃と遊んでたからそういったことに興味を抱く時間などありはしない。


 桃が頬にキスしてきてもそういうものなのだろうと思い気にもとめなかったし、時々私の下着を自分の部屋に持ち帰っているのもあまり深くは考えもしなかった。キスはギリギリするのかもしれないが下着を盗むのは今考えたらおかしいのでは。家に帰ったら少し桃とお話をしないと。


 私は電車に揺られながら駅に着くまでのんびりと座っていた。








 気づけば家の前まで着いていた。玄関のドアを開けようとしている手が震えているのが目に見えてわかった。今までこんなこと一度もありはしなかったので未知の恐怖を感じる。しかし、うだうだしていたって時が過ぎるだけ。私は覚悟を決め目の前のドアを開けて家の中に入った。


 玄関には桃の靴があったので帰ってきているということがわかる。なかったらなかったらで少し焦っていたかもしれない。なにせ既に時刻は六時を過ぎている。


 私は靴を脱ぎ自分の部屋へと向かう。リビングには誰もいなかったので桃は自分の部屋にいると思う。私はそのまま階段を登り二階へと上がる。


 自分の部屋に向かって歩いているが途中にある桃の部屋からは何も音が聞こえない。おかしいなと思いながらも自分の部屋の前に着いたのでそのままドアを開き自分の部屋の中に入る。


 「んっ……おねえちゃん…もっと…」


 すると私のベッドの上で何か寝言を言いながらすやすやと寝ている桃の姿があった。私はバッグを床に置き、ベッドに近づく。


 可愛らしい寝顔を浮かべながら気持ちよさそうに寝ている。起こすわけにはいかないのでそのまま桃の顔を眺めることにした。


 こんなに可愛らしいのに私の下着を盗んだり女の子同士のそういった作品を読んでいたり。とてもじゃないが信じられない。純粋無垢だと思っていたがために未だに驚いている。


 「なんだか私も眠くなってきたかも…」


 桃の寝顔を見ていたら眠気がやってきた。今まで考えていたことがどうでもよくなるくらいには眠くなっている。一緒に寝ても問題はないよね。


 私はベッドに入り桃を抱き枕かのように抱きながら意識を落とした。


 

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る