第3話 なのちゃん

 私は教室の扉を開け教室の中に入る。教室には私とある人を除けば誰もいない。私はそのまま自分の席の方に歩く。


 「ましろちゃんおはよ…!」


 「お、おはよ…?篠崎さん」


 篠崎さんは私に笑みを向けながら声をかけてくる。それに対し私はきっと引きつった笑みを浮かべている。


 「ましろちゃん……私と一緒にいいことしよ…?」


 「み、みみやめっ…!」


 篠崎さんは私の耳元でそう囁いてくる。囁かれると少し変な感じがする。不快とか

そういった類のことという感じではなく、どちらかというと気持ちいというかなんというかそういった感じがする。


 「…やっぱり、お耳弱いんだぁ?」


 「んっ…!……や、やめてください」


 私は咄嗟に篠崎さんから距離をとる。私は耳元を押さえ篠崎さんの方に視線を向ける。篠崎さんは昨日のような小悪魔的な表情を浮かべこちらを見つめている。しかし、昨日とはちがいどこか妖艶さが出ている。


 一体何が起きてるの。明らかにこれは友達の距離感とかじゃない別の距離感。でも、もしかしたら普通なのかもしれない。私に友達がいないからこの距離感が異常に見えてるだけでもしかしたら。


 「ましろちゃん…?友達同士なら普通の距離感だよ…!逃げないで」


 篠崎さんの表情を見るに明らかに嘘をついているかのようには到底思えない。やっぱり私の勘違い、思い込みだったのだろうか。


 私は俯いて考えているといつの間にか篠崎さんは私の目の前まで移動していた。


 「ひゃっ…!」


 顔を上げると篠崎さんが目の前にいたため私は驚きのあまり変な声が出てしまう。私は羞恥心で教室を飛び出してしまいたくなってしまう。しかし、逃げたって意味はないのだと思う。


 「……ましろちゃん恥ずかしいの?かわいい」


 「私はかわいくないです…」


 自分から出た声が思ったよりも低くて自分で驚いてしまう。そんな私の声を聞いた篠崎さんは驚きの表情をあらわにしており、さらに驚いてしまう。


 「ましろちゃんはかわいいよ?少なくとも私はそう思う」


 「っ!……でも、私よりも篠崎さんの方が何倍もかわいいです」


 私は思っていることを篠崎さんに言うと、篠崎さんは照れているのかほんのりと頬と耳が赤く染まっている。


 照れてるのかな。でも、私にかわいいって言われたって嬉しくはないと思う。だって私はかわいくもないし、人と話すのだって慣れてないし。何より篠崎さんが照れるとは思えないのかもしれない。


 まるで誘惑をしてるかのような発言に囁き、理性を駄目にしてしまう甘い声。今、考えてみれば昨日の囁きも今日みたいに誘惑していたのかも。だからといって私は誘惑に負けるような人間ではない。


 しばらくの間、私たちの間で沈黙が続いた。








 あれから少し経ち、朝のホームルームが終わった。この間私たちの間で一切の会話はなかった。会話の代わりに何故か私は篠崎さんに手をニギニギされていた。


 「篠崎さん…?そんなに私の手触るの楽しいですか……」


 「ましろちゃんの手細くて綺麗…」


 私の手を触るのに夢中しているのか私の話を聞いてくれない。それどころか私の顔すら見てくれない。どうしたら話を聞いてくれるのだろうか。ふと私は一つの考えが脳裏に過る。


 私も同じことをすればいいんだ。朝の時のように。


 「…な、なのちゃん……?」


 「……」


 篠崎さんの手の動きが止まり、朝のように耳がまた赤くなっている。何かしら反応をしてほしいのにそれといった反応がないと少し困る。羞恥心が襲ってくるから。


 「だ、だいじょうぶ?」


 「……そっちがそういうことするってことは何したっていいんだよね…!」


 篠崎さんは私を見つめながら何か独り言をブツブツ呟いている。その姿はどこか妖艶に満ちていて背筋がゾッとしてくる。私を見つめてるその瞳はまるで獲物を捉えているかのようなそんな感じがした。


 どうしちゃったんだろ。変に篠崎さんの真似して囁かなきゃよかったかな。でも、友達だったら普通のことって言ってたし。きっと大丈夫だよね。篠崎さん私のことをまるで獲物のように見てる気がするけど。


 そんなことを考えていると篠崎さんはまた私の手をニギニギし始める。しかし、前とは違いどこか手つきがいやらしい。


 「篠崎さん…!?手つきが少しいやらしいというか…」


 「でも、嫌じゃないでしょ?」


 篠崎さんはいつもの小悪魔的な表情で私を見てくる。心做しか声が更に甘くなっている気がする。ただでさえ甘い声がより一層甘くなって激甘になってい脳が溶かされそうになる。その声で耳元で囁かれたらきっと色々と邪念に負けてしまう。


 「そうだ私のことさっきみたいになのって呼んで?」


 「そ、それはちょっと…」


 「ドロドロに溶かすよ」


 私は半ば脅しのような篠崎さんの言葉に恐怖を覚えたので私は大人しく従う。その方がきっと身のためだよね。


 「えっと…な、なのちゃん……」


 私がそう言うとなのちゃんはまたその場で固まってしまった。


 

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