第2話 妹
電車に揺られながら私は今日あったことを思い出してみるがほとんど一人で固まってる記憶しかなかった。誰かと話す勇気が私にもあればなにか変わったのかもしれない。だけど私にはそんな勇気はなかった。
でも、そんな勇気がなかったとはいえ今日私には人生で初めての友達ができた。私よりも遥かに可愛くて綺麗。少し距離が近いような気もするけどそれはきっと私の気のせいであって普通の距離感なんだと思う。
「まずは距離感になれないと…!私ならできる」
ガラ空きの電車の中私はそうボソッと呟くのだった。
カーテンの少しできた隙間から朝日が差し込んでくる。私は目をこすりながら身体を起こしあくびをする。
「ねむい…顔洗いにいかないと」
私は立ち上がり洗面台に向かう。寝起きで思考が働かないていないが顔を洗えばきっと目が覚めるだろう。
私はそんなことを思いながらも洗面台の前に着いたので扉を開ける。そこには愛おしき我が妹、桃の姿があった。
「おはよ〜桃」
「お、お姉ちゃん!?今日起きるの早くない…?」
桃は何故か私を見て少し驚いた表情をしている。寝ぼけてて視界がはっきりとしないがなにか後ろに隠しているように見える。
「ねぇ、何持ってるの?」
「な、なにも持ってない…!」
明らかに桃はなにかを隠しているような反応をあらわにする。時間には余裕がありそうなので目を覚ますついでに問い詰めてみよう。
「本当に…?本当のこと言ってくれたらその…何でも言うこと聞いてあげるから」
「うぇっ!……ど、どうしよ…」
桃は真剣そうな表情で考え始める。どうしてそんなに真剣に考えてるのか定かではないが彼女にとっては大事なことなのだろう。
今のうちに隠してるもの取れるのでは…?
私はそのまま桃に近づき手に持っているものを取る。
「私の下着…?なんで……?」
「……っ!」
桃は何故か私の下着を持っていた。どうして私の下着を隠していたのかわからない。
「ち、ちがうの!決してやましいこととかしてないから!」
桃は頬を赤らめながら必死に私に弁明している。必死に弁明している桃の姿が可愛くてつい頭を撫でてしまう。
突然の私の行動に桃はより一層頬を赤らめ俯く。そんな姿がまた可愛らしくて私は桃を抱きしめる。
「大丈夫だよ…私怒ってないからね」
「……んっ」
桃はそっと私を抱き返す。
早朝からお互いを抱きしめてるよくわからない姉妹がそこにいた。
あの後、桃は少しして洗面台を出て部屋に戻っていった。私はそのまま顔を洗い桃と同様に自分の部屋に戻った。
私は制服に着替えながら昨日篠崎さんが言っていた明日が楽しみだねについて考え始める。
私は一体何をされるのだろうか。検討がつかないがきっと悪い意味ではないのだと思う…いや、そう思いたい。初めてできた友達によくないことをされた日にはきっと精神がもたないと思う。
「でも、篠崎さんはそんなことしないよね…!」
私はそんなことを考えているうちに制服に着替え終えたのでカバンを持って部屋を出た。
リビングに行くと既に父母は食べ終え仕事に行っていた。唯一桃だけは座って私を待っていた。
毎回先に食べてていいと言っているのだがそんな私の言葉を聞きもせずこうして毎日私がくるまで待っていてくれる。私としては申し訳無さでいっぱいではあるが正直嬉しいという気持ちが勝っている。
「毎回ごめんね…待っててくれて」
「べ、べつに…!」
桃は普段素直ではないがたまに素直になって甘えてくれる。それに距離を詰めると照れているのか可愛らしい反応を見せてくれるのでとても愛おしい。
クラスの人ともこんな風に普通に喋れてたらたくさん友達できてたのかな。でも、喋れてたらきっと篠崎さんとは関わりができてなかったかもしれない。
「お姉ちゃん…!あ、あーん…」
私が考えていると桃が私の口元にだし巻き卵を近づけてくる。私は差し出されただし巻き卵をそのまま食べる。桃は毎回こういうことを自分からしてくるがその度に頬を赤らめ恥ずかしがっている。
「ありがと、美味しいよ?お返しに桃も口開けて?」
「…っ!ど、どどどどうしたのかな!?お姉ちゃん…!」
恥ずかしがって動揺している桃を気にもせず私は桃の口元にだし巻き卵近づける。しかし、桃は動揺していてなかなか口を開けてくれない。
「何でもしてあげるよ?」
私がそう言うと桃はすぐさま差し出しただし巻き卵を食べる。私が毎回そう言うと言うことを聞いてくれるが悪い人に騙されないか少し心配になる。でも、そんな単純な桃も愛おしい。
私たちはお互いに食べ合いっこしながら朝食を食べ終えた。
一時間電車に揺られながら最寄り駅に着く。私は改札口を抜けるとそのまま学校に向かって歩き始めた。
その時の私は知る由もなかった。誘惑の言葉が囁かれる日が始まるのを。
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